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アンドロイド転生86

2105年4月

サツキのアイディアでアオイはシュウに手紙を出す事にした。彼と会う7月迄はまだ3ヶ月もあるのにアオイは手紙の文面でいつも頭が一杯だった。ネットで文例集にアクセスしてみた。

礼儀正しく丁寧に…。
『小暑を過ぎ、夏本番を迎えました。貴殿におかれましては…』
これでは仰々し過ぎる。

くだけてみようか…。
『こんにちは。シュウちゃん。アオイよ!元気にしてた?私は元気!』
子供じゃあるまいし。

正直に書くか…。
『アオイです。生まれ変わりました。それも驚く事にアンドロイドです。信じてくれますか?』
信じるわけがない。

あれこれと散々悩んで決めた。
『恐れ入ります。故人ニカイドウアオイ様を偲んで想い出話しにお付き合い下さいませんか。僅かな時間でも結構で御座います』

文面は決まったものの紙とペンがなかった。サツキが主人で書道家のアユミから半紙を貰い、筆を借りてくれた。本当にサツキには色々と助けてもらっている。いつか必ず恩を返すと誓った。

サツキの前で手紙を書いた。何度も深呼吸をして一球入魂の思いでしたためた。半紙に筆書きなんて、まるで戦国時代の果し状か…平安時代の恋文のようだがサツキは褒めてくれた。

「とてもお上手です。文面も分かりやすくて簡潔です。きっと会って下さいますよ」
自分でも満足の仕上がりだ。よく乾かして丁寧に折り畳み大切に保管した。7月が待ち遠しかった。


3ヶ月後 2105年7月
カノミドウ邸

待ちに待ったその日を迎えた。シュウの曾孫のナナエの誕生日会がカノミドウ家で開催されたのだ。多くの人で賑わう邸内。頃合いを見てアオイはナナエに向かって腰を下ろした。

「お願いがあります。この手紙をシュウお祖父様に渡して欲しいのです。私は東屋で待っています」
「シュウお祖父ちゃま?これ手紙?…わかった!」
ナナエはスキップして人混みに消えた。

アオイは傍にいるサツキに頷き、モネと手を繋いだ。どうかモネが飽きたりせずにいてくれますように。アオイはナニーとしての責務がある。彼女をサツキに託すわけにはいかなかった。

東屋に着くとアオイは電子ノートとペンを差し出してモネにお絵描きを勧めた。喜んで描き始めた。アオイも椅子に腰掛けたが直ぐに立ち上がってウロウロとする。身も心も落ち着かなかった。

それでもナニーとしての職務を全うする。東屋は大きな屋根で陽を遮っているものの真夏の熱気は強い。熱中症でも起こしたら大変だ。電解質のドリンクを与えるとモネは喉を鳴らして飲んだ。

次にモネの帽子を取って頭や首周りの汗をタオルで拭いた。小型扇風機のドローンを起動する。扇風機はモネの周りを浮遊した。モネの綿毛の様な髪を揺らした。快適な様子でお絵描きに夢中だ。

「カー。見てぇ。あのねぇ。お花とぉ〜、カーとぉ〜、モネ〜」
「まぁ!お上手ですねぇ!」
ああ、そのまま夢中でいて…!

屋敷の方に目線を向けた。すると遠くからこちらに歩いて来る男性と女児の姿が見えた。アオイの高性能の瞳が顔に焦点を当てた。シュウとナナエだった。喜びでアオイの胸は一杯になった。

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