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アンドロイド転生224

2114年12月29日 夜明け
東京駅跡地の慰霊碑にて

(アオイの視点)

アオイは慰霊碑の傍に座り一晩をそこで過ごした。家族との日々がいくらでも想起された。優しかった両親、可愛かった弟。アオイは裕福な家庭に生まれ心身ともにゆとりのある暮らしぶりだった。

ねぇ?私が死んだ後は…きっと悲しかったよね?寂しかったよね?けれど…震災に遭うまでの18年間は幸せでいてくれたかな。アオイは彼らに長く辛い思いをして欲しくはなかった。

アオイは時折顔を上げ、慰霊碑に刻まれている名前を見つめた。ああ、本当にいなくなってしまった。もう2度と逢えないのだ…。人間の生も死も地球から見れば本当にちっぽけだ。

でも彼らは確かにいた。そして私を幸せにしてくれた。先に死んじゃってごめんね。
「パパ、ママ、ミナト。不思議でしょ?私は生まれ変わったんだよ。こんな事ってあるのね」

アオイは宙を見上げた。遠い眼差し。
「シュウもね、生きてるの。別な人と結婚して家族が一杯いるの。悲しいけれど、それで良かったんだよね?ね?」

アオイの瞳から涙が滲む。
「あー。私って泣き虫だよ、変わってないよ」
東の空に宵の明星が輝いた。どんな事があろうとも陽はまた昇るのだ。アオイは立ち上がった。

「じゃあ、帰るね。一緒に居れて良かった。また来るからね。待っててね」
アオイは家族の名前に触れた。日の出が石碑を照らした。彼女の頬も。

アオイは慰霊碑に手を振って歩き出した。タケル達と待ち合わせの駐車場に向かった。管理事務所からアンドロイド達がやって来て手向けられた花と蝋燭を片付け始めた。祭りは終わったのだ。


(エリカの視点)

「アオイだ」
エリカは人影を指した。はるか遠方に彼女がいる。高性能の瞳がアオイを捉えた。エリカは残念な気持ちになる。また3人になるのか。

邪魔だ。本当にアオイは邪魔だ。人間同士の2人にはいつでも脅威を覚えるのだ。エリカは一晩をタケルと過ごして幸せだった。慰霊碑の傍に2人は座り、ポツポツと話すタケルの過去に耳を傾けた。

家族や学校や仕事の話し。どれもワクワクした。エリカの質問にも丁寧に答えてくれた。無線ケーブルで瞬時に意識を共有できるアンドロイドの2人だが会話をする事が嬉しかった。

タケルの横顔を眺めた。私は何でこの人が好きなんだろう。何でこんなにも心が惹かれるのだろう。顔が整っているのは好ましいが、彼の笑みが安心する。タケルの心模様を表している。

優しさ、儚さ、強さを感じる。瞳に力を宿している。揺るぎない精神力。何事も真っ直ぐだ。私も愛されたい。ずっと共にいたい。触れたい。触れてほしい。でもそれはしない。

みだりに接触はしない。私だってソーシャルディスタンスは分かっているつもり。いつかタケルと恋人同士になれた時に取っておくの。きっと私の願いは叶う。ね?タケル?ね?

「来年も来る?」
タケルは頷く。
「私も来る」
タケルはチラリとエリカを見て薄く笑う。
「今迄1度だって来なかったじゃんか」

「1人の方が良いかなって思ってたの」
「へえ?そんな気遣いが出来るんだ?」
「そうだよ!私だって色々考えるんだよ!」
「はい、はい。分かりました」


(タケルの視点)

駐車場でアオイと合流した。彼女は満足そうな笑みを浮かべていた。
「来れて良かった。本当に良かった。有難う」
素直に礼をするアオイに好感が持てた。

そうだ。彼女だって家族を失ったのだ。その気持ちは痛いほどよく分かる。たった一晩だけでも家族の魂に寄り添って想いを共有したに違いない。タケルは頷いて微笑んだ。

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