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アンドロイド転生90

2105年10月
カノミドウ邸

庭のテーブルセットに着いて来賓客と談笑していたシュウと妻のユリコの元にナナエがやってきた。
「お祖父ちゃま。お手紙でーす!」
「ん?手紙?」

シュウはナナエから受け取ると手紙を広げた。
『先日は失礼を致しました。ニカイドウアオイ様の言伝が御座います。“シュウちゃんのお嫁さんになる”と宣言した夏祭りの時の事です。またお時間を取って頂けないでしょうか。宜しくお願い致します』

夏祭り…?シュウちゃんのお嫁さん…?何を言ってるのだ?シュウは頭を捻った。だが、シュウちゃんと自分が呼ばれていた頃を思い出した。そうだ。遥か昔の事だ。

「シュウちゃんか…」
彼は宙を見上げた。若々しい1人の女性の顔が蘇った。20代で儚く逝ってしまった婚約者。美しい人だった。アオイ。…彼女とはそう。幼馴染だった。

アオイがどんどん若返っていく。女性から少女へ。そして幼女に。浴衣を着ていた。そうだ…!夏だった。祭りの華やかな喧騒が目の前に浮かぶ。重低音と共に鮮やかに天に咲く花を思い出した。

そうだ。そうだった。懐かしい。あの時の自分は少年だった。アオイは小さかった。手を繋いで夜空を見上げた。遠い遠い記憶。 ああ…僕はすっかりお爺さんになってしまったなぁ。

シュウはもう一度手紙に目を落とした。アオイの言伝?一体どういう意味だ?この手紙は2回目だ。ニカイドウ家と懇意にしてると言ったあのアンドロイドからだろう。

あれは…少し変わっている。今時のマシンの仕様はそんなものなのか…?名前はなんて言ったかな…。シュウは3ヶ月前の東屋での事を振り返る。
『通称はサヤカですが心の名前はアオイです』

そうだ。名前がふたつだと嬉しそうだった。
『輪廻転生を信じますか?』
そんな事も言ってたな。全く驚くばかりだった。あのマシンは不思議だ。

アオイが生まれ変わったらどうするかと問われた。そんな事は起こらない。人の生は一度きりだ。だからこそ、この一生が大事なのだ。それにしても…何でそんなに僕に用があるんだろう?

「ねぇ〜。お祖父ちゃま。東屋で待ってるって〜。行こう。あ、お祖母ちゃまも行く?」
ナナエはユリコを見た。シュウはユリコに手紙を見せた。彼女も目を通した。

「あら。言伝なんて何かしらね?でも私は遠慮しておくわ。ちょっと頭が痛いの」
「大丈夫か?」
「ええ。お薬を頂くわ。うちのは効くもの」 

カノミドウ家は製薬会社を営んでいる。数多くの薬があるがどの製品も品質が良かった。ユリコは辺りを見回し執事アンドロイドに声をかけて薬を欲しいと言った。執事は直ぐに取りに行った。

シュウは立ち上がった。
「じゃあ、ちょっと行ってくるかな」
「ナナも行く〜!」
「なんだか楽しそう」

ユリコは満面の笑みである。
「私もワクワクするわ。行ってらっしゃい」
「ああ」
シュウは頷くとナナエの手を取って歩き出した。

※夏祭りのシーンです


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