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アンドロイド転生989

2119年8月14日
富士山8合目付近にて

1年2ヶ月前から富士山で生活するタケル。8合目ロッジのオーナーのオダギリケントと従業員アンドロイドのガクとアマネの4人暮らしだ。ホームを去った彼にまた新しい家族が出来たのだ。

タケルはガクと共に山奥を歩いて樹を選んでいた。伐採する為である。切った木材はロッジに運び、木で火を起こして電力を作るのだ。だがそれも稀だ。現代は全てソーラーパネルで賄える。

しかし悪天候が続く事もある。緊急時には昔ながらのやり方が役に立つのだ。タケル達は間伐も考慮した上で樹を選ぶ。決定すると樹木に礼を言った。人間の役に立つ為に永い時を生きてきたのだ。

チェーンソーで倒す。斧とノコギリが活躍する。山奥に断続的な音が響いた。疲れのない身体は仕事が早い。テキパキと事が進む。引き締まった顔のタケルはすっかり“山男“になっていた。

茨城県でも山暮らしだったがここは違う。日本最高峰の山なのだ。暮らし振りはホームとは格段に違っており厳しい。それでも毎日が楽しかった。居場所が出来てやり甲斐が生まれたのだ。

伐採を終えてガクと共にロッジに向かっているとイヴが通信して来た。彼女の画像が宙に浮く。
『こんにちは。お元気ですか』
「まぁね。ボチボチだ」

『ちょっとしたご報告があります。昨日アオイが墓参りに訪れたのです。管理事務所の画像を捉えました。カノミドウシュウ氏を覚えていますか』
「ああ。アオイの元婚約者だ」

『シュウ氏は昨年他界しました。アオイは人間達の計らいで最後の時を過ごせました。アオイには強運があるようです。そして人から好かれる。ですから彼女の想いが叶ったのです』

タケルは苦笑した。
「そうか。シュウ、シュウって煩くてアオイの執念には参ったけど…会えたんだな。良かったな。生まれ変わった甲斐があったってやつだ」

イヴの隣に立体画像が浮いた。アオイの他に3人の人物が映っており、男性がズームされた。
『覚えていますか?シュウ氏の曾孫です』
「ああ…」

タケルは頷いた。カノミドウ邸に押し入った時に現れた若い男だ。更にイヴはシオンをズームした。彼はホームの家族だ。
「そうか。シオンは国民になったのか」

次にアオイと共に笑う少女をズームする。
『覚えていますか?あなたが助けた少女です。ルイの元恋人でアオイの育て子です』
「ああ…山で遭難した…」

タケルは不思議に思った。何故イヴはいちいち俺に報告するのだ?イヴは微笑んだ。
『こうやってアオイ達は繋がりました。私はいつかあなたも彼らと繋がるような気がします』

「…さすがにそれはないだろ。富士山にでも来ない限り。鈍臭いアオイなんて有り得ない」
『運命とは分かりませんよ』
「イヴから運命と言う言葉を聞くとはな」

『運命とは人間の意志にかかわらず、身に巡って来る吉凶禍福を言います。あなたやアオイは亡くなった。けれどアンドロイドの身体に転生し巡り合った。これは奇跡です』

「奇跡か。またまたイヴの言葉とは思えない」
『ですからアオイだけとは言わず、いつかホームの家族にも再会するのではと私は思うのです』
「…そうか。そうかもな」

やり取りを見ていたガクがニッコリとする。
「タケルがオーナーを救ったのは奇跡でした。でも運命だったのかもしれません」
タケルはまたそうかもなと言って笑った。


※タケルがシュウとトウマと会ったシーンです

※タケルがモネを救ったシーンです


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