見出し画像

アンドロイド転生85

2105年4月
タカハラハルの自宅:リビング

「ナツはジュース!僕とモネはケーキ!ね〜?」
ハルがモネに顔を向けて小首を傾けた。モネも笑顔で小首を傾けた。同じ仕草に喜ぶ2人は脚をバタバタとさせて掌をテーブルに打ち付けた。

サツキが2人に優しく微笑みながら赤ん坊のナツを抱いてリンゴジュースを与える。
「はい。ハル様。モネ様。おやつですよ」
タカハラ家の執事が2人の前にケーキを置いた。

モネは目の前の皿を見て瞳を輝かす。フォークを手に取ってぎこちなくケーキを切ると口に運んだ。ハルもフォークを使ったがそのうち手掴みをして大きな口で齧り付いた。口元がクリームだらけだ。

モネはジュースを飲むナツを見上げて満足そうに笑った。1歳8ヶ月のハルの妹のナツがモネはお気に入りで毎回会うのを楽しみにしている。すっかりお姉さん気取りだ。

「ベビー達!ご機嫌ね!」
子供達以上にいつも機嫌の良い主人のアユミがリビングにやってきた。サクラコもそうだが、この時代の日本人は精神的平和で幸福度が高いのだ。

アユミはアオイを見やった。
「来週のハルの誕生日会には是非来てね!」
「有難うございます。お邪魔します」
アオイはニッコリと微笑んだ。

先月のモネの3歳の誕生日会に書道家のアユミは【萌音】と書いた大きなパネルを贈ってくれた。サクラコは大変感激したものだ。お返しに画家のサクラコはハルの似顔絵を密かに描いている。

サクラコの作風で子供を描くのは素晴らしい作品になるとアオイは確信している。淡い色調の愛らしいモネシリーズは観るだけで誰もが温かな気持ちになる。彼女の地位を不動のものにした。

おやつが終わり、ひとしきり遊ぶと子供達は眠ってしまった。アユミが仕事部屋に篭るとアオイはサツキの部屋に行った。ここで2人きりでお喋りをするのが楽しみなのだ。

「サツキさん…聞いてくれる?」
「何でしょうか?」
「シュウと…接する機会がないの」
アオイは肩を落とした。

サツキは頷く。
「接触禁止機構に縛られますからね」
アンドロイドはみだりに人間と接してはならない。
「こうやってどんどん時間が過ぎてしまう…」

サツキはふと顔を上げアオイを見た。
「手紙を書いてみては如何でしょうか」
「手紙?シュウに…?」
「はい。7月のナナエ様の誕生日会に旦那様もお出になられます。ナナエ様に手紙を託すのです」

手紙…。そうか。その手があったか。アオイは顎に指を添えた。シュウの曾孫のナナエに頼む。それを読み、彼が私に会う…!
「それは…イイかも。凄くイイかも」

サツキはニッコリとした。
「有難う御座います。…手紙のメリットは自分の想いを簡潔に伝えられる事です。旦那様が会って下さるような文章を考えましょう」

アオイは何度も頷いた。そう。手紙。それが1番良い。何故今まで思いつかなかったのか。
「さすがサツキさん!やっぱり違う!」
「私はサヤカさんのお力になれるのが幸せです」


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?