アンドロイド転生270
12月31日 深夜1時半
(東京都港区の路上 アオイの視点)
仲間達は車で去った。アオイは1人ホームに向かって夜道を歩いていた。都内から茨城県の山まで歩く。疲れを知らぬアンドロイドの身体は苦もない。計算すると徒歩で約30時間。元旦の朝には着く。
だが…ホームに戻っても自分の居場所はあるのだろうか。追放されるかも知れない…。シュウとの再会が嬉しくて自分勝手に振る舞ってしまった。リーダーのタケルの命令に背いた。
私はなんて事をしてしまったのか…。いや、シュウと逢うこと。アオイだと打ち明けること。それが叶ったのだ。そしてシュウも信じてくれた。それだけで私のアンドロイドの生は満足だ。
これで良かったのだ。ホームを追い出されても文句は言うまい。転生した意味があったのだから。アオイは月夜を見上げた。涙が滲んでくる。生前も今も泣き虫は変わらない。
「シュウ…。あなたと逢うのはこれがきっと最後ね…。わ、私はそれでも幸せよ。これも運命なんだね。うん。うん…。これで良かったね…」
アオイは1人泣きながら村を目指した。
(高速道路 タケルの視点)
タケルは無言で車を操作した。アオイの我儘な行動が許せず怒りに満ちていた。シュウと逢うのは10分だけで良いと言ったではないか…!こんな簡単なルールも守れないのか!
ルークが一同を見渡した。
「シュウ以外の家の者がいたのは誤算だったな」
チアキが頷いた。
「シュウの曾孫のトウマと言ってた。アオイの事を知っていた。私達の顔も見られた」
トワが口元を歪めた。
「ダイヤを盗んだ事は家のヤツらが旅行から戻ればバレる。シュウやトウマが俺達の事を息子達にバラすかどうかだな」
ルークが溜息をついた。
「話すだろうな」
タケルは憤怒した。アオイから身元がバレてホームに行き着くかもしれない。
この稼業が知れたらどうなるのだ?これはタカオ達に黙っているわけにはいかない。全く面倒になってきた。チアキは険しい顔のタケルを見つめた。
「待ってよ。タケル」
タケルは眉を上げた。チアキは苦笑する。
「そんなにマズい方向を想像しないで。あっちだって悪行がバレたら困るでしょ?アオイは説得するよ。きっとうまくいくよ。許してやって」
トワが声を荒げた。
「説得なんて出来るかよ?ったくよ!アオイは死んだ時にシュウとは終わったのに、また会いたいとか抜かしやがって、結局こんな事になったじゃねぇか!許さねぇよ!俺は!」
ケイが慌てた。
「どうするつもりだよ?」
追放…。誰しもがその言葉を思い浮かべた。無言だったが其々の目元口元が語っていた。
ケイは更に慌てた。
「ま、待て。アオイには反省して貰えば良い。最悪の事はしないでくれ」
人間のサキに想いを寄せているケイはアオイの気持ちが理解出来るのだ。だが誰も何も言わなかった。
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