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アンドロイド転生236

白水村集落:リビング

「皆様、宜しくお願い致します」
ソファからサツキは立ち上がり、丁寧にお辞儀をした。アオイがサツキを廃棄の運命から救い出し、家族の一員になる最初の挨拶だ。

ミオが拍手した。
「こんにちは。私はミオ。宜しくね。アオイのお姉さんみたいなんだって?あ、この人は私のお兄さんみたいなんだよ?タケルって言うの」

タケルは微笑んだ。
「そう。兄貴みたいなもん。でもまぁ、ここはみんな家族だから俺らは兄弟姉妹だな」
トワが無線ケーブルをサツキに差し出した。
「俺達を知るならこれが一番早いぜ?」

アンドロイドは頸のソケットに無線ケーブルを挿入し、仲間達で意識を共有することが出来た。語って話を聞かせるよりも、よりスムーズで詳細に事実を伝える事が可能なのだ。

30分後。全員のアンドロイドの過去を知ってサツキは深く頷くと感慨深い顔をした。
「私の知らない世界の方ばかりです。世の中の広さを痛感しました。これからも色々教えて下さい」

トワが笑った。
「敬語をしなくてもいいよ!」
「私は砕けて話す事はまだ出来ないでしょう。それが自意識のないマシンなのかもしれません」

アオイは慌てた。
「自意識とかそうじゃないとか関係ないよ。サツキさんはそのままで良いんだよ!」
「有難うございます。嬉しいです」

サツキは再度皆に向かって頭を下げた。
「皆様のお力になれるように努力します。ここでお会いしたのも何かのご縁だと思いますから」
「サツキさんは縁って言葉が好きなんだよね!」

一同が散会すると、アオイは部屋に案内した。2人一組の自室はアオイが独占していた。今日からサツキも一緒なのだ。彼女はずっと親友だった。でも、もう家族だ。嬉しくて堪らなかった。

サツキはアオイを見つめて微笑んだ。
「モネ様はお元気ですよ。昨日のナツ様のお誕生日会に来て下さったのです」
ナツとはサツキの育て子だ。

アオイは胸に手を当てた。
「モネ様…。ああ、逢いたい…!」
サツキは無線ケーブルを取り出した。
「サヤカさん。記憶を共有しましょう」

アオイは頷いてケーブルを差し込んだ。たちまち目の前にバルーンが見えてきた。happy birthdayの文字がプリントされている。大勢の人々。楽しげな騒めき。軽快な音楽。幸せな場面。

モネがナツに飛びついて抱き締めた。モネは髪をボブカットにしていた。清々しい印象だ。ミニ丈のブルーのドレスが眩しい。ああ…!モネ様!アオイは感激して胸が一杯になった。

モネから贈り物を渡され、喜び一杯のナツも成長しておりアオイは感慨深い気持ちになった。兄のハルがやって来る。ああ!ハル様!モネと一緒に育って来た彼は若木のような身体だ。

モネが顔を移し、こちらを真っ直ぐに見つめた。サツキを見ているのだ。
『サッちゃん、明日でサヨナラだね。寂しいね。私もカーと別れた日を思い出すと寂しい』

モネの顔が悲しみに憂う。表情が少し大人びた。背も高くなったようだ。アオイの最後の記憶の12歳から1年半が経っていた。アオイはモネの成長がただただ嬉しかった。涙が滲んだ。

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