アンドロイド転生59
回想 2025年 ホテルの庭園にて
ユリコはシュウを見上げて微笑んだ。
「お互いに心に想う人がいるなら公平でしょ?私は恋人にはなれなくても良い妻にはなれると思います。シュウさんも良い夫になって下さい」
シュウはユリコの言葉に心が揺れた。自分は結婚しなくてはならない。それがカノミドウ家の存続に関わっている。分かっているが辛い。別の女性と人生を歩めるのかと。
だがユリコはアオイを恋しく思っても良いと言う。そしてユリコも忘れられない人がいる。互いに納得の上の結婚なら気が楽ではないか?そう提案をするのだ。言わば契約婚だ。
シュウは漸く口を開いた。
「君は…それで良いの?」
ユリコは力強く頷いた。
「今日で6回目のお見合いなんです」
ユリコは笑った。
「もう充分です。それにシュウさんは見た目が好みだし、性格も優しそう。私はどうですか?シュウさんの好みに合いますか?」
シュウはユリコをじっと見つめた。ハキハキと話す彼女に好感を覚えた。大人しそうな見た目とはギャップを感じたがそれが魅力的だった。今までのお見合いの相手とは違った。
彼女達はアオイを忘れさせようとしていた。その気持ちは充分理解できた。夫になる人は自分だけを見ていて欲しい。そう思うのは当然の感情だ。だがシュウには苦しかった。
アオイは幼い頃から傍にいた。空気のような存在だった。そう簡単に忘れる事は出来なかった。失って3年半も経っていても。いや、日を追う毎に彼女の存在は大きくなってきた。
24歳のままのアオイが宙空に幻影となって浮いた。シュウを見つめる。手を振る。微笑む。笑う。白い歯が輝く。艶やかな頬が眩しい。抱き締めたい。ああ、もう一度逢いたい。
「…さん?シュウさん?…ダメですか?私じゃ?」
「いや。ユリコさん。あなたを妻にしましょう」
そう。恋人にはしない。でも夫婦になろう。カノミドウ家の存続の為に。
ユリコも力強く頷いた。
「はい。分かりました。あなたを夫にします」
彼女の瞳に決意を見た。口元が引き締まっていた。「シュウさん、太陽が眩しいですね?」
シュウは小首を傾げた。また文豪の比喩か?
「それはどういう意味?」
「いえ。今私が思いついただけです。想い出は美しいにしておきましょうか?」
そう。アオイはいつまでも褪せず、その存在を日増しに強くする。アオイ…。僕は結婚するけれど、心はずっと君にある。僕を見守っていてくれよ?シュウは蒼い空を見上げた。月が綺麗だった。
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