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アンドロイド転生185

2113年4月 夜
白水村集落

ケイとトワが2人でシェアしている自室に戻ると扉の前に人間の女性のサキが立っていた。トワはチラリとケイを見ると手を振って部屋に入って行った。彼なりに気を利かせたのだ。

「ケイ。星が綺麗だよ?見に行かない?」
「行こう」
建物を出て集落の外に行く。暫く無言で歩いたがそのうち自然に手を繋いだ。

そう。2人はそんな仲なのだ。小川に出たので土手に並んで座った。2人は夜空を見上げる。雲が空を覆い尽くしていた。
「あれ?星が全然見えなかった…!」

サキは吹き出した。ケイを誘う口実を設けたかっただけだった。2人は笑って見つめ合った。
「サキ。逢いたかった」
「ホント?」

ケイはサキの事を考えると心が晴れやかになる。この気持ちは何なのかと、ずっと不思議だった。前世は人間だったタケルの心と繋がって、これは恋なのだと知って驚いた。

自意識の芽生えた自分にも恋という情動が生まれたのだ。気がつくといつもサキを目で追っていた。彼女は快活で笑顔が素敵だ。いつの頃からかサキと目が合うようになった。

そして2人は恋に堕ちた。ケイは幸せな反面不安だった。人間とアンドロイドの恋なんて、本当は同じ土俵にはない。サキの両親だっていくら自分に寛容とは言えども娘の恋人として認めたくない筈だ。

ケイはサキの両親に申し訳なく思っていた。美しいサキはいくらでも恋のチャンスがあるのだ。だがこの想いを抑えるのも辛かった。どうして良いか分からないままこうやって時々こっそりと逢う。

「ケイはホームに来て何年?」
「7年。初めて会った時の君は19歳だったね」
「え!もうそんなになるの⁈早いねぇ」
サキは気付かないフリをした。

ケイは26歳の彼女の年齢を憂う。
「サキは…結婚は…」
「しない!どうせね?ホームは近親婚で衰退していくんだよ?終わるんだよ」

「だからって…僕と付き合っていても…」
「ケイは嫌なの?」
ケイは勢い良く頭を振った。
「嫌じゃない。そんなわけない」

サキはケイの肩に頭を乗せた。
「私はケイが好きなの。それだけなの。あなたがアンドロイドだとか関係ないの」
サキの手がするりとケイの手に絡む。

ケイは愛おしげに彼女見やった。
「僕もサキが好きだ。だから幸せになってもらいたいんだ」
「今が幸せだよ!すっごく」

だが幸せはいつまで続くのかとケイは思う。19歳だったサキは25歳モデルの自分を追い越した。この先はどんどん歳が離れるばかりだ。2人の行く末に希望は…あるのか…ないのか…分からなかった。

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