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アンドロイド転生922

2118年12月1日 夕方
ロンドン某所:室内プール

「そうそう!腕を上げて!脚を伸ばして!」
リョウは必死になって両腕を回転させる。足先をバタバタと動かすがどんどん両脚が落ちてくる。上げろ!脚を!腕を!もっと!もっと…。

だがブクブクと沈んでいく。足が床に触れた。ああ、着いてしまった。立ち上がって息を大きく吐いた。何度も肩が上下した。顔を拭った。
「む、ムズイ…」

ミアは身体を水面でジャンプさせる。手を叩いてうんうんと頷いた。
「5mだよ。新記録!good job!」
「そ、そっか…5m…出来たか…」

ミアはニッコリとした。
「よし。休憩しようよ」
2人はプールから出て施設内にある大きなジャグジーにやって来た。先客は10人いた。

湯に浸かりホッと息を吐く。冷えた身体に気持ちが良い。リョウはガラス張りの壁と天井を見上げた。雲間から月が覗いている。まだ夕方なのに外は真っ暗だ。イギリスは日没が早い。

「しかし…泳ぐって難しいんだなぁ…」
「大丈夫。少しずつ上達してるよ」
今日で4回目だが4回目でまだ5m。それでもミアはリョウを否定しない。努力を労う。

リョウはプールを眺めて感心するように頭を振った。溜息をつく。
「人間ってホントに色んな物を作るんだな。飛行機に教会にレストラン。遊園地にプールだ」

どれもこれも全て渡英したからこそリョウは知ったのだ。ミアの調律師も父親のバイオリン職人も。そして多くの人と知り合った。見識を広げる度に自分の無知を痛感したものだ。

エマにイギリスに来いと言われなければ、村から出るつもりはなかった。そんな狭い世界で人生を終えるところだった。来て良かったと心から思う。何せミアと出会えたのだ。

「井の中の蛙だったな…」
「カワズ…?」
「カエルだよ。小さな場所で世の中を知った気になっていると言う意味さ」

リョウの近くいた白人男性が話しかけて来た。英語だ。リョウは受け答えをする。イギリスに残ると決めてから猛勉強中だ。郷に入れば郷に従えだ。今はゆっくりなら会話が出来る。

『日本人かい?』
『そうです』
『僕は東京と京都に行ったよ。素晴らしかった。日本は美しいねぇ』

現代の日本の景色は過去とは違う。第二次関東大震災が起こってから白いドーム型の低層住宅が碁盤の目のように並び、緑溢れた近未来都市に様変わりしている。どこの地域も殆ど同じだ。

それでも観光地には特色があり、東京ならではの最先端のショップがあったり京都には寺院が多く残っている。歴史を大切に温存しているのだ。統一感と機能的な快適さを追求している。

『シンプルで纏まりがあるんだな』
『いや。イギリスの方が凄いです。何百年も経った建物で暮らしている。古き良き文化です。やはり統一感がありますよ』

リョウは心からそう思った。そもそも東京で暮らした事がない。イギリスに来て5ヶ月。こちらの方が余程親しみのある街になった。
『僕は毎日楽しいです。幸せなんです』

男性はニッコリとする。
『いいね。うん。幸せが溢れてるよ』
リョウは礼を言うとジャグジーから出た。よし!もうひと泳ぎだと言ってミアを誘った。

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