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アンドロイド転生56

港区:カノミドウ家の邸宅

「お腹が痛い…」
カノミドウトウマは学校に行きたくなかった。だから嘘をついた。ナニーアンドロイドのマナミは彼の腹部に手を当てた。

「どの辺りですか?」
「ん〜。その辺り…?」
「下痢してますか?便秘ですか?吐き気はしますか?痛みはズキズキ?キューン?シクシク?」

続々と質問されて困ってしまった。
「…学校…行かなきゃダメ…?」
「トウマ様。学校に行きたくない理由があっても良いですが、嘘はいけません」

どうやらお見通しらしい。最近、週の半分は朝になるとこの問答を繰り返すのでマナミも学んだようだ。だけど行きたくない理由は言いたくない。
「分かった。行くよ…」

いつもの通学路を歩く。平和な時代。子供の独り歩きは何ら問題がなかった。前を歩くクラスメイトの1人を見つけて心臓がトクンと鳴った。彼の事は後ろ姿でもすぐに分かる。アンザイハヤトだ。

トウマは早足になり追いつくと声を掛けた。
「おはよう」
ハヤトは振り返って笑顔を見せる。
「おはよう」

朝からハヤトと会えて嬉しくてならない。弾むようにトウマは歩いた。話も弾んだ。2人は連れ立って校内に足を踏み入れた。その後ろからおはようと声を掛けられた。ハヤマアリサだ。

トウマの楽しい気持ちはたちまち消え失せた。反対にハヤトとアリサは楽しげに会話する。教室に入る。2人はずっとお喋りに興じている。トウマは寂しい気持ちを抱え、デスクに座った。

ハヤトとアリサは恋人同士だ。ハヤトの7歳の誕生日にアリサが告白して付き合うことになった。それまでいつもトウマと一緒だったハヤトはすっかりアリサのものになってしまった。

悔しくてたまらなかった。大好きなハヤト。アリサが奪った。2人が仲良くしている様子を見るのが辛かった。途端に世の中が色褪せた。何をしてもつまらない。もう学校なんか行きたくない。

20日程前。あんまり不満だったので校内に入らず、Uターンした。当てもなく歩き公園に行った。ブランコに乗ってもちっとも気持ちは晴れなかった。だから絵を描く事にした。

夢中になって時間を忘れた。満足のいく出来栄えに気分が良くなった。事務アンドロイドが公園に入って来た。探しに来たのだ。ノートを見せた。 
「ブランコですね。とてもお上手です」

事務員は笑顔から直ぐに真顔になった。
「でも学校を抜け出すのはいけませんよ」
トウマは素直に頷いた。
「ごめんなさい…」

そんな経緯があった。また抜け出すわけにいかない。でも2人を見ているのも嫌だ。クラスメイトがトウマに声を掛けて来た。適当に相槌を打つ。他にも友達はいるのに彼の心は晴れなかった。


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