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アンドロイド転生245

[4部 始]

2年後 2117年12月1日

「どうだ?」
タケルは鏡に映るルイを見た。ルイは前髪に何度も手を当てて真剣に目の前の鏡を見つめている。左右の横顔を映し最後に正面に戻ると何度も頷いた。

「…良いんじゃない?」
ルイは美容師だったタケルに最新のヘアスタイルのホログラムを見せて、これと同じにしてくれと頼んだのだ。満足そうな笑みが浮かんでいた。

ルイは15歳。自分の容姿に手をかける年頃になっていた。椅子から立ち上がると若木のような身体は伸びやかだった。タケルは微笑んだ。
「許可してくれて良かったな」

ルイは殊更平然とした顔をしているが嬉しさを隠せない。彼は明日初めて東京に行く。父親のタカオと共に新宿の平家カフェへ。何度も両親に頼んでやっと実現したのだ。心は高揚感で一杯だった。

勿論、ルイはホームが金品を強奪した事による取引だとは知らない。あくまでも日用品の受け取りだと思っている。キリ達は息子に夜の狩を打ち明けるのはルイが20歳になった時と決めていた。

東京に連れていくのもその時と考えていた。だが都会に憧れを持つ年頃になってしまった。山のキノコ採りの名人は成長と共に変わって来たのだ。タウンに行きたいと言い出したのだ。

しかし親達は息子がタウンと関わる事を望んではいなかった。ホームという平家の落人の子孫として集落で幸せを見つけて欲しかった。だがルイは親達の願いに反抗した。

拗ねたり、怒ったり、訴えたり様々な事をした。しまいにはダンマリを決め込み2人を徹底的に無視をした。息子の熱意と信念に親達は根を上げるしかなかった。タカオは溜息をついた。

『キリ。もう良いじゃないか。憧れを持つのは誰でもあるさ。今度の取引の時に連れていくぞ』
『うーん。憧れを持ったって夢で終わるだけなんだよ?でも、まぁしょうがないか…!』

親達は許可する事にした。ルイは勝ったと小躍りしたい気分だったが、背中を丸め小さく頷いただけだった。子供のように浮かれているのを知られたくない。それが精一杯の大人びた対応だと思った。

いざ東京に行くとなったら、幼馴染達がアレコレと口を出した。
『ダサいと思われるかもよ?』
『髪も服も何とかしろよ』
『お土産を買ってこいよ』

そして、先程、タケルにカットしてもらって満足いく仕上がりにまた小躍りしたくなった。でももうひとつタケルにアドバイスを貰いたい。
「あ、あのさぁ?…服は…?」
「服…?」

ルイはタケルの部屋から出た。
「こっち来てよ」
自分の部屋にタケルを招いてクロゼットを見せた。今まで服装など考えた事もなかった。どれが良いのかまるで分からない。

タケルは服を見ながら笑いたくなった。すっかりルイも思春期なんだと。自分もそうだった事を思い出す。人は成長していく。初めて会った時のルイが浮かんだ。まだ7歳だったのだ。

「そうだな…。この組み合わせなんか良いかもな」
「分かった。これにする」
ルイの顔が期待に紅潮していた。
「楽しめよ」
「う、うん」

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