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アンドロイド転生115

2113年8月(別れまで7ヶ月)
タカミザワ家のマンション

「カー?ちょっとイイ?」
ザイゼンとキッチンでフルーツゼリーを作っていたアオイにモネは声を掛けた。
「はい。何でしょう?」

アオイは作業を止めてシンクで手を洗ってエアタオルで乾かした。モネはチラリとザイゼンを見るとアオイの手を引っ張って自分の部屋に誘った。
「…アレ…になったみたい…」

アオイはすぐに理解した。
「それは!モネ様!おめでとうございます!」
モネは自分の唇に人差し指を当てた。
「シーッ!大きな声を出さないで!」

モネは慌てたように扉を見やった。
「ゼンゼンに訊こえちゃうでしょ!」
初潮を迎えた事をたとえアンドロイドでも男性型には知られたくないのだ。

11歳になったモネだが、幼い頃と変わらずカー(サヤカの愛称)と呼び、ザイゼンをゼンゼンと言う。アオイ達をマシンだととっくに理解をしていても長年ひとつ屋根の下で暮らす家族なのだ。

「モネ様。昔は女の子のお祝いにはお赤飯を炊いたそうですよ。そうしますか?」
「いや!絶対やめて!」
モネは激しく首を振り口元を引き締めた。

アオイはふと思いついた。
「手当の方法は分かりますか?」
「学校で習ったし、カーもちゃんと用意してくれてたから大丈夫」

アオイは半年前から、この日が来る事を予想してモネのバスルームに準備しておいた。良かった。役に立ったようだ。モネは照れ臭そうにしていたが、そうか。とうとうその日が来たのか。

「お腹は痛くないですか?」
「ちょっと痛い」
「お薬が必要になったら言って下さいね」
現代の鎮痛薬に副作用は全くなかった。

モネは唇を尖らせた。
「明日は行けなくなっちゃったな」
友達4人とプールの約束をしていたのだ。夏休みの楽しみがひとつ減ってしまった。

モネは11歳と5ヶ月。あっという間に大きくなった。またひとつ大人の階段を登ったのだ。感慨深い思いになって瞳が潤んできた。彼女の成長がアオイにとって生き甲斐だった。

「モネ様。これからとても大事な話をします。勿論、モネ様の人生ですから生きたいように生きて下さい。でも、カーからのお願いに少しだけ耳を傾けて下さいますか?」

モネは呆れたように笑った。
「何よ〜?そんな真面目な顔をして」
アオイはソファにモネを誘導し、2人は座った。モネの手を包むと息を吸い込んだ。

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