見出し画像

アンドロイド転生154

ルークが最後の一撃を敵に繰り出すと相手はリングに没して動きを止めた。誰かが火のついたタバコをリングに投げ入れた。人々が真似をする。敵の後頭部がスパークし火がついた。

吐いた油を伝い、たちまち顔が燃え出した。ルークは立ち上がった。審判が腕を掴んだ。
「勝者!ルーク!」
ルークは両手を上げた。

本当はちっとも嬉しくなかった。これで11体目の仲間を犠牲にした。何の為に…?人間の欲望の為に…。賭けに勝った人々の悦びの叫び。やった!やったぞ!勝ったぞ!ルーク万歳!万歳ルーク!

それでもアンドロイドの手や脚はユラユラと揺れた。まだ機能停止にならない。口からギーギーと音が洩れた。リングの中央に火柱が上がった。審判が消火剤を巻いた。

煙が立ち上る。有機物の肉や鉄が焼けた臭いが充満する。敵の指が動いている。ルークは踏みつけた。アンドロイドはやがて止まった。客の歓声が地の底から湧き上がるようだ。

ルークは特等席のブースをチラリと見た。主人のスオウが満足げに頷いた。全く人間は恐ろしい。リングに横たわる仲間の骸を見た。ぽっかりと空いた眼の穴がルークを批難している様に見えた。

その後はストリッパーのアンドロイドのショーだ。少女はリングを縦横無尽に跳ね回り、音楽と共に服を脱いでゆく。リングの淵には酒とクスリで酔った人間が虚な目をして鈴なりになった。

「14歳モデルの東洋人型。子供体型が愛らしいです。名前はミオ!さぁ!お客様、ミオをご自由になさって下さい!誰かいますか?」
何人もの男の手が上がった。

3人が選ばれリングに上がり、彼女とのひと時を公衆の面前で愉しむのだ。あらゆる方法で陵辱した。興奮した人間はストリッパーを機能停止になるまで痛めつけることもある。それでも良いのだ。

アンドロイドはその為にいる。人間の欲望の駒として。暴力の犠牲として。擬人的殺傷の願望の末として。それが彼らの日々なのだ。2人とも誕生してたった3ヶ月。だがそれでも長生きだった。

「それで…俺はミオと逃げ出した」
タケルは頸に無線ケーブルを差し込んでいた。今ルークの過去の全てが映像となってタケルのメモリに映った。途中で気分が悪くなった。

「でも自由になれるかと思ったが、警告音が不快だった。俺達を苦しめた。でも自殺は出来ない。だからラボに戻り廃棄にしてもらおうと思ったんだ。そしたらサーチしていたチアキとトワに助けられた」

チアキは頷いた。タケルの時も彼女はドローンで逃亡しているのを知ったのだ。
「私はいつもサーチしているの。今もよ、ほら」
チアキは背を向けて頸を見せた。

無線ケーブルが差し込んであった。どんな時でもサーチは欠かせないのだ。
「アンドロイドはいつ逃げてくるか分からないもの。ね?あなたみたいにね?」

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?