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アンドロイド転生32

回想 2020年1月

シュウがニカイドウ家を訪れる1ヶ月前のある日の午後。シュウとマイコはカフェにいた。
「別れよう、私達」
ミドリカワマイコはシュウを見つめた。

シュウは目を見開く。ざわめきが遠のいた。
「え?」
「だから、別れよう」
「なんで?」

マイコはシュウを射るような眼差しで見つめた。彼はその瞳を見つめ返した。マイコは両手を組み、精一杯腕を伸ばして深く溜息をつき椅子に背を預けた。視線が彷徨った。口元が歪んだ。

「だってさぁ、私じゃないもん。シュウ君が見ているのは」
シュウは眉根を寄せた。
「どういう意味?」

「アオイちゃん。あの子を見てる」
「アオイ?アオイは…妹みたいなもんだよ」 
「違う」
「何を言ってるんだ」

マイコは挑戦的な目を向け、フッと笑った。
「違うよ。だって、妹と彼女の名前は間違えない。シュウ君、気がついてないでしょ?5回に1回は私の事をアオイって呼ぶの」

シュウは目を丸くする。
「まさか…」 
「そう。そのまさか…だよ!だからもう良いの。私は退散する。あとは2人でうまくやって」

「ちょっと待ってくれよ」
「待たない。私決めたの」
「勝手に決めないでくれ」
「勝手にさせてもらう」

マイコは目を落とし右手の人差し指でテーブルをゆっくりと叩いた。2人はその指を見つめた。時がサラサラと流れていく。
「アオイちゃんはさ…」

マイコは顔を上げた。
「シュウ君の事が好きみたいだよ。知ってた?」
「え?」
マイコは苦笑する。

「2人共気づかないのか…そのフリをしてるか…私にはサッパリ分かりません。でもまぁ…それはどうでも良いわ。私はシュウ君と一緒にいても楽しくなくなった。それだけ。じゃあね。さよなら」

マイコはいきなり立ち上がった。シュウは彼女を見上げる。無言だった。マイコはシュウを見下ろすと口調を和らげ微笑んだ。
「自分の気持ちに嘘をついちゃダメだよ」

去っていく彼女を見送った。追おうとは思わなかった。マイコの決意は固い。それよりも彼女の言葉が気になっていた。アオイが好き?ああ、好きだ。でもそれは妹のようなものではないか?

今までアオイに異性を感じた事はなかった。子供の頃からずっと一緒だった。最近は接する機会がなくなっていたが、どうやら今後はまたニカイドウ家に行く事になるのだ。

ミナトの家庭教師を頼まれた。またアオイと顔を合わすようになるだろう。素直に嬉しかった。この気持ちは何なのか?分からない。シュウはマイコの言う通り自分の気持ちに嘘をついている。

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