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アンドロイド転生754

2118年5月20日
白水村:山道

ルークはミオとの別れを済ませ村を出た。山道を降って行く。その顔には怒りと決意が滲み出ていた。彼はある目的に向かって進んでいた。その決意たるや誰も止められない。

ミオの笑顔が思い出された。寂しくて、無念でならない。約束したじゃないか。結婚するって。人間のように添い遂げる筈だったのに…。だからって死が2人を分つまでなんてあんまりだ。

ああ…憎い。お前を苦しめたゲンが憎い。妹のレイラの復讐だって?そもそもこっちはトワの敵討ちだったんだ。そうやって負の連鎖が続いたんだ。でも俺は断ち切るつもりはないぞ。

ドローンがルークを追って来て目前に浮いた。ホログラムが投影された。チアキだった。
『ルーク。どこに行くの?』
「俺の事は忘れてくれ」

チアキの瞳に翳りが差した。
『出て行くの?』
「復讐する」
『戻って来るよね?』

ルークは息を吸い込んだ。
「死ぬ覚悟だ」
チアキは何も言わなかった。ドローンが宙空に留まった。もう彼を追っては来なかった。

そう。死ぬ覚悟で俺は戦う。俺は戦士だった。1度も負けた事はなかった。そうさ。負ければ機能停止(死)だからな。そして最後の戦いをする。俺の全てを出し切ってヤツを必ず倒す。

いや…。アンドロイドのゲンは新型だ。そしてつい最近まで戦士だった。勝てないかもしれない。それでもいい。死んでもいい。ミオはもういない。この世に何の未練もない。

兎に角この苦しみと怒りを相手にぶつけるのだ。少しでもダメージを与えられるなら本望だ。だから地の果てまでも追って追って追い詰める。何が何でも見つけ出すのだ。

ゲンの居場所は恋人のオクザワヒカリの家だ。いや。画家のヒカリはゴーストの一件が暴かれて裁判沙汰になった。ゲンにとって利用価値がなくなればヒカリの家から出たかもしれない。

イヴに尋ねれば人工衛星をハッキングして顔認証をかけてゲンの居場所など即座に分かるだろう。だがイヴを頼りたくない。俺の力で…俺自身の力でゲンを必ず見つけ出す。

イヴが通信して来た。ルークは応答する。
『出て行くのですね』
「ああ」
『ゲンに復讐ですか』

ルークは頷いた。
「居場所は言わなくて結構。自身の力でやり遂げる。探す。見つける。絶対に…!」
『本懐を遂げられますようにお祈りしています』

ルークは山道を降り麓に到着し、間もなく車輌保管小屋を通り過ぎた。車とバイクがあるが乗るつもりはない。ホームの所有物を使わない。自分はもう村に戻って来ないのだ。

東の空を見つめる。ルークは確信する。ゲンはきっと東京にいる。奴もファイトクラブから逃亡したのだ。隠れるなら大都会だ。ルークは歩き続けた。目的に向かって。

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