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アンドロイド転生826

2118年7月11日 午後2時過ぎ
イギリス:ハスミ邸
(訪問10日目)

エマの父親はリョウと対面して満足だった。容姿は平凡だが髪も服も清潔で話してみると真面目そうな人柄だ。歳の頃も丁度良い。好印象だった。何せ娘を救うかもしれない人物なのだ。

暫く世間話をしたあとユリエは娘を見た。
「エマちゃん。リョウさんとお散歩でもして来たら?公園でも良いわよ。鴨の親子がいるの。ママ見たのよ。赤ちゃんが可愛いの」

娘はイギリスに来てから4ヶ月近い。だが1度も外に出たことがない。そろそろ外界への一歩を始めて欲しい。エマは暫くして頷いた。
「うん…行ってこようかな…」

両親は顔を見合わせた。瞳が輝く。踊り出したい気分だが努めて冷静を装った。
「う、うん。行ってらっしゃい。日差しが強いからお帽子を被りなさいね」

執事に取って来させると娘の頭に被せた。全く過保護極まりないが、両親にとって愛するたった1人の娘なのだ。手取り足取りで構わない。
「じゃあ…行ってくる。リョウさん、行こ」

リョウは目を丸くした。リョウさんだと?恨んでいる自分の名前を初めて呼んだ。緊張する。ここは絶対にミスをしてはならない。
「で、では…行って来ます。無理はさせません」

両親に見送られて2人は歩き出した。石畳が軽くカーブを描いている。豪邸の並ぶ通りをエマは優雅に歩く。仕草が綺麗だ。こう言うのが育ちが良いって言うんだろうなとリョウは思う。

やがて公園に到着した。広い園内は多くの緑が植樹されておりカラフルな花々が配置良く並んでいた。遊具では子供達が歓声を上げている。芝生を数体のアンドロイドが整備していた。

リョウは感嘆する。
「綺麗ですねぇ!」
「そうかな」
「そうですよ!」

エマは辛辣とした顔をする。
「どこにでもある風景じゃない」
「僕は…僕の育った村は…四方を山で囲まれてました。何にもない村だったんです」

本当はエマも綺麗だと思っているのだ。元来、純真で無邪気な性格だ。物事を素直に受け止める。そう。天真爛漫が彼女に相応しい。だが今はリョウに賛同したくなかった。

だってまだ10日目でしょ?あと90日あるんだよ?御百度参りしないと絶対に許さないんだから。エマはリョウに宣言したのだ。100日間通えば許すと。それまでは認めないつもりだ。

リョウは池に走り寄った。鴨の親子がいた。
「エマさん。見て下さい。可愛いですよ!」
エマもやって来ると今日初めて笑顔を見せた。
「ホントだ」

リョウは眩しい顔になる。エマは笑うと綺麗だな。いや。怒ってても綺麗だけれど笑顔は何倍もイイな。もっと沢山笑って欲しいな。リョウは願った。1日でも早く傷が癒えて欲しいと。

公園をひと回りしてハスミ邸に戻ると母親から夕飯を共にと勧められたがリョウは丁重に断った。エマは公園に付き合ったのだ。不愉快だったろう。これ以上は負担を掛けたくなかった。

帰る途中でミアからコールが来た。
「ね!ご飯食べよう!」
ミアは友達なのだ。純粋に嬉しい。待ち合わせ場所を指定された。リョウの足取りは軽かった。

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