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アンドロイド転生1002

2119年10月15日
東京都台東区

アオイとシオンは浅草で撮影を終えた後は上野に向かった。近くに住むチアキと待ち合わせなのだ。チアキは幼稚園で保母として従事している。元保母の彼女にとって天職と言えよう。

上野駅に到着すると声を掛けられた。
「アオイ!シオン!」
アオイはチアキに抱きついた。
「久し振り!会いたかった!」

チアキはシオンを見上げた。
「凄い背が高くなったんだねぇ。本当にモデルらしくなった。益々カッコ良くなった」
「有難う」

レストランに来るとシオンはアオイを見た。
「そうだ。食べたくないの?元人間だろ?」
転生した当初は寂しく思ったものだが、そんな気持ちはとうの昔に消え去った。

「今は充電が気持ちが良いよ。でもご飯って楽しいよね。目で見て…香りを感じて…舌で味わって…。甘い、辛い、苦い、渋い、しょっぱい、酸っぱい。そして旨み。味覚って本当に大事」

「だな。いつか…アンドロイドも食事を楽しめるようになれるといいな」
「真似事は出来るけどね。そうね…本当ね…味わいが感じられたら嬉しいな」

食事を終えて『つばさ幼稚園』にやって来た。到着するとアオイとシオンは目を丸くした。2000坪の敷地には園舎、プール、遊具、アスレチック、砂場。それと職員宿舎と本宅。

中庭にはスロープの回廊があって植樹されている。木のベンチが要所で配置されていた。
「凄い。広い。綺麗。ビックリ!」
「でしょう?」

次に職員宿舎にやって来た。美しく機能的な部屋だ。10体のアンドロイドがにこやかに出迎えてくれた。チアキは微笑んで本宅を指した。
「園長先生とご家族も会いたいって」

アオイとシオンはミシマ夫妻と対面した。2人とも穏やかそうな人物で笑顔に自信が溢れていた。幼稚園経営に満足しているのだろう。ミシマ氏は息子のサクヤを紹介してくれた。

サクヤはシオンの髪を見つめた。
「白?」
「銀だよ」
「あっ!目の色もなんか違う!」

「紫色なんだ」
サクヤは繁々とシオンを見つめた。
「凄い綺麗だね。カッコイイね」
「有難う」

「あのさ?お兄ちゃんってさ?ルイ兄ちゃんの家族なんでしょ?会ったよ。夏に。僕もホームに行ったんだ。すっごく楽しかった!」
「それは良かった」

サクヤはアオイに顔を移す。
「あっ!この人の目も違う!」
人と言ってくれるのがアオイは嬉しい。
「はい。オッドアイって言うんです」

「知ってる!チアキ先生と同じだ」
ホームのアンドロイド達はキリに禁止機構をデーリトしてもらう際にオッドアイになるのだ。それが仲間の証なのだ。

チアキは微笑んだ。
「アオイって言うんです。私の妹分ですよ。アオイ。彼はサクヤ先輩。うさぎ係の大先輩」
「今晩は。サクヤ先輩」

アオイは嬉しかった。チアキは保母に戻り充実しているようだ。クールな彼女が終始ニコニコと笑みを絶やさない。チアキは変わったなと思う。そう。アンドロイドだって成長するのだ。


※チアキがミシマ家で暮らし始めた日です


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