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アンドロイド転生232

ランドラボ

職員は指を耳元に当てて携帯電話に指示をした。
「TEラボのカスタマサービスにコールしろ」
ほどなくして相手が出た。
『TEラボで御座います』

職員は自信に溢れていた。
「そちらのアンドロイドが逃亡したんです。担当者に繋いで下さい」
『え?は、はい。お待ち下さい』

担当者に代わった。
『お世話になっております。弊社のアンドロイドが逃亡したとか…?』
「ええ。IDはM2-245iです」
『お調べします。お待ち下さい』

担当者は訝しげな声を上げた。
『M2-245iは任務中です。GPSで調べましたが間違いなく派遣先におりますが…?』
アオイが偽ったIDが功を奏した。

職員は鼻で笑った。
「そんな事はありません。今、目の前にいますよ。こちらはランドラボです。うちのアンドロイドを唆して逃亡を企てたんです」

担当者は失笑した。
『何かのお間違いでしょう?弊社の製品が逃亡するなんて事はありません』
「じゃあ!目の前にいるのは何者なんですか?」
『分かりませんね』

職員は担当者の言い草に腹が立った。
「アンドロイドは嘘がつけない。IDは間違いないでしょう?」
『ええ。虚偽は出来ませんねぇ』

担当者は鼻で笑った。小馬鹿にするように。
『だからそこにいるわけが無いんですよ。ええ。だってたった今、派遣先にいますからね?」
「じゃあ!こいつは何なんだ?」

担当者の含み笑いが聞こえるようだ。
『さあね?』
「あんたじゃ話にならない!責任者に代われ!」
『私が責任者です』

「もっと上の者を出せ」
『あなた、その物言いは何なんですか?無礼にも程がありますよ。物事を深く追求するのは良くありません。マナー違反です』

そう。この時代の人はもっと穏やかだ。この職員の怒りは珍しい。職員は顔を赤黒く染めた。
「何がマナー違反だ?」
『あなたはランドラボのどちら様ですか?いい加減な事を言うとこちらにも考えがあります』

「あんたのところのアンドロイドが逃げ出したんだぞ!責任問題だからな!」
『お話になりませんね』
「なんだと?」

職員はもうアオイの事を見ようともしない。今がチャンスだ。アオイは手を引っ張りサツキの顔を見た。目で物語る。走り出せと。どうか、理解してくれ。サツキの瞳が煌めいたように見えた。

アオイは囁いた。
「3、2、1…!ゴー!」
2人は走り出した。電話に夢中になっていた職員は気付くのが遅れた。
「あ!お、おい!待て!」

途端にサツキの内側から警告音が鳴る。従うまで止まらないだろう。アオイは警告音は鳴らない。職員は守衛アンドロイドに追えと命令する。守衛達はアオイに向かって走り出した。

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