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アンドロイド転生183

2113年3月 夜

「タケル、またイイ?」
自室に向かうタケルにミオが声を掛けた。彼は振り向いて微笑んだ。ミオの願いに気安く応じてくれる。彼女はそれが嬉しい。

2人はリビングにやって来るとソファに座った。ミオが無線ケーブルをタケルに渡すと彼は頸のソケットにケーブルを挿した。ミオも同じようにする。これで準備は万端だ。

2人はソファの背もたれに背中を預けて寛いだ。ミオは目を瞑る。5分ほどそのままでいた。唇が微笑む。時々ニッコリと笑みを浮かべる。
「可愛い…!」

ミオはタケルの幼少期を観ていた。妹のミチルは赤ん坊で母親に抱かれてミルクを飲んでいた。すぐに時が前後する。中学生の修学旅行や小学生の時の兄妹喧嘩などコロコロと想い出が変わるのだ。
 
タケルは意識が霧散しないように集中しているがなかなかうまくいかない。印象あるものに意識が飛ぶのだ。人間らしい思考だった。それでもミオは満足だった。目を瞑るミオの頬が持ち上がっている。

タケルの過去を初めて観た時に、人間の意識や心や想いに胸が打たれた。なんて素敵なのだろう。人ってこうなの?こんなにも鮮やかな記憶があるの?知りたい!もっと観たい!

ミオは願った。
『タケル。また観せて?いい?』
タケルは快く頷いた。一度観せたのなら何度だって構わないと思ったのだ。

こうして月に一度程度2人は時を過ごす。彼女は人間だったタケルを羨ましく思っているようだった。間もなくミオは瞼を開き満足そうに微笑んだ。
「ミチルが可愛いね。いつも思うの」

ミオはタケルの妹のミチルが特にお気に入りだった。おっとりとして愛らしいのだ。
「妹はどんな感じ?」
何度も聞いたが何度でも聞きたい。

タケルは宙を見上げる。遠い眼差し。
「可愛かったよ。生意気な時もあったし喧嘩もしたけど…守りたかった」
「私も…喧嘩をしてみたい」

ミオの胸は切なかった。人間だったタケルが羨ましいのだ。赤子から幼児。そして少年へと変化した。私も成長したい。大人になりたい。ミオは14歳モデルの自分の身体が不満なのだ。

ミオはタケルに訴える。
「あのね?大人になりたいの。変わりたいの。外見が変化すれば心も変わりそうなの」
「うん。そうだな」

そう答えるもののアンドロイドが成長したいと思うなんてとタケルは驚く。人工知能に感嘆した。これも自意識が芽生えたAIならではなのだろうか。タケルはふと閃いた。

「キリに身体を作って貰えば?」
「ルークはそのままで良いって。可愛いって」
2人は恋人同士だった。アンドロイドにもそんな関係になる心があるのだ。

タケルはう〜んと眉根を寄せる。
「ミオのなりたいようになればいいんじゃないか?それが自意識を持つ人間みたいだぜ?」
「ホント?そう思う?」

ミオは瞳を輝かせた。人間というワードに敏感なのだ。あんなにも虐げられたのに…人間になりたいと思うのかとタケルは感心した。タケルはミオの頭を撫でた。まるで妹のようで可愛かった。

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