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アンドロイド転生152

ルーク:3年前(2107年)

3階分地下に降りたその広い部屋には多くの人間がひしめいており熱気に包まれていた。室内は暗く、重低音のサウンドが響く。ドローンのライトが周回し人々を赤や青や緑に染めた。

大麻、覚醒剤、錠剤が飛び交い、酒を煽り、誰もが陶酔していた。煙とアルコールと香水と小便と嘔吐の匂いが入り混じっていた。決して清潔と言えないこの場所が憩いの人間もいるのだ。

部屋の中央にはリングがあった。間もなく試合が始まる。アンドロイドの一本勝負。機能停止になるまで闘うのだ。誰が勝つのか多くのマネーが賭けられる。人々はこのショーを待ちかねていた。

個室に1人の人間と1体のアンドロイドがいた。
「ルーク。10連勝ね?また私の為に勝ってね」
ルークの主人のクレハが彼の肩にもたれた。目の周りと唇を黒く染めていた。髪は感電したかのようだ。

クレハの耳には10のリング。舌の真ん中に大きなピアス。露わになった乳首も凹んだ腹もあらゆるところにピンが刺さっている。痩せた背中には天使の翼のタトゥー。痛みが彼女の恍惚。

クレハは大麻を吸った。ウィスキーを煽った。蛇の様なスプリットタンが唇から見え隠れする。煙が灯りの中を舞っている。目が座っていた。頭をルークの背になすりつけた。

「ジジイがさぁ。もっと残忍にやっつけろだって。楽しませろって言ってた」
ジジイとはクレハの愛人でヤクザのスオウ会のトップ。60歳のスオウトシキ。この世界では重鎮だ。

「本当は人間同士のバトルが見たいんだよ。苦しむ姿が楽しいんだよ。イカれてんの」
日本の影の部分。アンダーグラウンド。暴力と肉欲とクスリ。そして金。ここに闇があった。

ルークは白人モデル。背が高く筋骨隆々としておりいかにも強そうだ。誕生して3ヶ月。ルークの存在意義は闘うこと。そして勝つこと。負けた時にその生は終わるのだ。

リングガールのアンドロイドが迎えにきた。ルークは立ち上がった。クレハは虚な目をルークに向けて、ヒラヒラと手を振って見送った。ルークは頭を下げた。部屋から出て行った。

会場にルークが姿を現すと人々は興奮の叫び声を上げた。早くリングに上がれと急きたてる。ルークは1人で花道を歩く。セコンドはいない。人間のバトルじゃないのだ。介添人など必要ない。

リングに上がる。観客席の特等ブースにはスオウが愛人3人と共に座っている。満足げな笑みを浮かべていた。高級なスーツがよく似合っている。外見は整っていたがガラス玉のような瞳は冷酷だった。

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