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アンドロイド転生30

回想 2020年2月

「あ、ここで良いから」
アオイは運転席のタチバナマモルに声を掛けた。マモルはハザードランプを点けて車を停めた。アオイの自宅近くである。

ゼミの仲間と一泊2日のキャンプに行った帰りだった。寒い時期で若者達はいつだってエネルギーに溢れている。充分に旅を楽しんだ。
「送ってくれて有難う」

アオイはシートベルトを外した。
「じゃあ、またね」
「待ってくれよ。ちょっとだけ話さない?」
アオイはマモルを見た。一体何を話すんだ?

マモルはアオイをじっと見つめた。
「前からさ。気になってたんだ」
「え?」
「だからさ。好きだってこと!」

アオイは驚いた。小学部から一緒のマモルに対して異性を意識した事がなかった。
「あの…ごめんね。私…そんな気持ちないの」
「アイツの事が好きなのか?シュウ先輩」

アオイは目を丸くする。
「え?なんで?」
「お嫁さんになるって言ってたじゃんか」
アオイは言葉に詰まった。

そんな子供の頃の話…。でもシュウの顔が浮かぶと何だか居た堪れない気持ちになった。
「俺、アオイのこと大事にするよ。だからさ、付き合ってくれないかな」

アオイはこの場にいるのが苦しくなってきた。ドアを開いて車から降りようとした。手を掴まれた。驚いて振り返る。マモルの瞳が真剣だった。そんな顔を見たことがない。

何だか怖くなってきた。
「ごめんなさい。ごめんね。私帰るね」 
掴まれた手首が熱くて振り解こうとしたのに、マモルは握ったままだ。

「いや。離して」
男の力の強さに怯えた。マモルは手を離した。アオイは車外に飛び出した。マモルも車から降りるとトランクを開けてアオイの荷物を取り出した。

受け取ろうとしたらいきなり抱き締められた。生まれて初めての事で身体がすくむ。心臓が早鐘のように鳴った。シュウの顔が浮かんだ。
「いや!やめて!…シュウちゃん!」

身を捩ってマモルの腕から逃れると彼の胸を突いた。荷物を掴んで家に向けて走り出した。後ろを振り向きもしなかった。アオイは玄関を上がると家族の声掛けも無視して部屋に入った。

マモルの違う一面を見て怖かった。シュウの顔が浮かんだ。もし抱き締められたのがシュウだったら…。どんなにか嬉しかっただろう。会いたい。今すぐに。この気持ちは…恋だ…!やっと分かった。

だがシュウには恋人がいる。私の入る余地なんてない。シュウは今頃どうしてる?マイコと一緒?瞳に涙が盛り上がった。孤独を感じて寂しかった。ベッドに突っ伏して泣き出した。

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