見出し画像

アンドロイド転生1056

2120年8月26日 夜
平家カフェ 居住部分 リビングにて

店主のキヨシがキリ達に頭を下げた。
「手伝ってくれて有難う」
ディナータイムにキリとミアが助っ人になり、タカオとリョウは食材の買い出しに行ったのだ。

キリが親指を立てながらミアを見た。
「キヨシ叔父さんやリツの料理は絶品だからね。お客さんが絶えないよ。イギリスにもある?マシンじゃなくて人間が料理をする店が」

「うん。ある。人は好きね。アナログが」
全員が頷いた。どんなに正確に調理をするアンドロイドがいようとも、人の手作りに拘る。客はそこに求める何かがあるらしい。

キヨシがグラスを掲げた。
「リョウ、ミア。おめでとう。喧嘩したら真っ先にリョウが謝れ。それが夫婦円満のコツだ」
新婚夫婦は笑い合った。

次いでサキを見た。
「そしてサキ。元気な赤ん坊を産んでくれ。産まれたら直ぐに行くからな!よし!乾杯!」
全員が笑ってグラスを傾けた。

キヨシはあっと言う顔をした。
「そう言えばいつが予定日なんだ?」
「来月の5日前後。もうすぐ。苦しいから早く産まれて欲しい〜!」

妻のマユミが心配そうな顔をする。
「アカネ(サキの母親で妹)はいつ来るの?」
「明後日くらいかな?。お父さんは来ない。バカバカって怒ってばっかりで煩いの!」

父親の願いは娘は誰かと結婚して子供に恵まれる事でありそれが幸せになるのだと信じていたのだ。だがサキは違うのだ。
「いいの。父親なんて出産に不要!」

ミアはそっとサキを見つめる。人工授精で子供を宿し産んで育てるのだ。そしてアンドロイドのケイと人生を共にする。その決意は並々ならぬものだろう。陰ながら応援したいと思う。

笑うサキをそっと見つめる者がもうひとり。アンドロイドのアリスだ。羨ましくてならないのだ。ケイは人工授精を快く承諾したそうだ。サキはケイに似た子供が産まれると信じている。

私だって…リツに似た子供を産みたいのに…。アリスは子供を宿せない事が寂しいのだ。だからせめて人工子宮で出産しようと思うのにリツは首を縦に振ってくれない。

チラリとリツを見たが呑気にビールをお代わりしている。時を待てと言う母親(マユミ)の言葉を信じるしかないけど…。ハァと溜息をつく。人間のような仕草をしても…どうせ私はマシンなのね…。

リツはタカオを見て戯ける。
「前にさ?平家の灯台になれって言ったじゃないですか。その割にあまり来ません。皆んな忙しいんですね。サキだって久し振りだし」

タカオは笑った。
「ああ。そうだなぁ…言ったなぁ…。大丈夫。今は皆んなタウンに順応するのに精一杯なんだ。そのうち集まるさ。灯が付いている限り」

キリが夫のタカオの背をポンと叩く。
「あんた。良いことを言うじゃん!そうだよ。灯台はずっと変わらずそこにいる。だからこそ皆んな迷わない。安心なんだ」

誰もが力強く頷いた。この場にいる10人の思いはひとつだ。遥か昔、平家は戦に負けた。落人となって山間部に逃げるしかなかった。その後1000年間。ひっそりと暮らしてきたのだ。

だが近親婚の弊害により、とうとう命を繋げなくなった。村を去った22人は国民となり街に散った。だが彼らの心の拠り所。それが平家カフェなのだ。全員が灯台を目印に生きている。


※リツが灯台になると誓ったシーンです


いいなと思ったら応援しよう!