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アンドロイド転生919

2118年11月24日 
新宿区:平家カフェ
ドウガミリツの部屋

「ゲンが死んだよ」
リツの目の前には親戚のキリとタカオの立体画像が浮いている。キリ達は神妙な顔をして頷いた。彼らにはゲンを捕らえた事を報告していた。

キリは寂しそうに微笑んだ。
『ミオとルークに…伝えるね…』
ゲンに苦しめられて死んだミオ。その復讐で戦ったルーク。2人は村の丘の上で眠っている。

リツは頷いたものの虚しかった。たとえゲンが死んだとしても2人は戻らない。そして遺された者は悲しみと共に生きていくほかないのだ。ソウタも同じだ。きっと心は晴れないだろう。

リツは話を変えた。
「アリスは着く頃か?」
『うん。さっき山を登ってるって連絡が来た。そろそろ到着するよ』

アリスはゲンが持っていたエムウェイブ(アンドロイド制御装置)をキリに届けに山に向かったのだ。TEラボが造り出した。それをゲンがラボの女性職員から騙し取ったのだ。

キリはエムウェイブを研究したいのだ。アンドロイドのプロとして好奇心と興味が湧いた。きっとそれが世に出る日も近いだろう。だがその前に調べたいらしい。キリらしかった。

リツは思いついた顔をする。
「あ。リョウはホームに帰って来た?」
『まだ。よっぽどイギリスが楽しいみたい』
「そっか」

リョウはイギリスに出発する前日に平家カフェに泊まった。彼はエマに謝罪をするだけなので一泊2日で帰って来ると言った。だがもう5ヶ月になる。イギリスは居心地が良いようだ。

リツはキリの息子について聞きたくなった。
「ルイは?元気だって?店に来るって言ってたのに全然来ないよ」
『山岳部に入って忙しいんだって』

リツは苦笑する。
「なんだよ。山で暮らしていたのにまた山か」
『なんか色々とキノコを見つけて喜んでるよ』
「ああ。アイツはキノコ博士だからな」

今度はキリが尋ねてきた。
『チアキはどう?』
「幼稚園は竣工したって。間違いなく春にはオープンするってさ」

キリは嬉しそうに頷いた。
『じゃあ、サキは?』
「サキは凄いよ。テレビで観たろ?」
『うんうん。シーグラスで有名人じゃん』

リツとキリは話が尽きなかった。他にも国民になった親戚達がいるのだ。皆、街での暮らしに順応している。1000年もの長い期間を細々と繋いできた平家の落人の子孫達。

茨城県の山中でひっそりと暮らしていた彼ら。ミオ達のように死んだ者もいれば、新しい世界に飛び込んだ者もいる。運命という川はあらゆる支流を作り出す。それをただ傍観する者もいる。

黙ってやり取りを聞いていたタカオがリツを見つめて真面目な顔をした。
『リツ。平家の灯台になってやってくれ。新宿で皆んなを見守ってくれ』

山で一生を終えるタカオ達。家族の事が心配なのだろうと思う。リツは微笑んだ。
「うん。そうだな。いいね」
灯台になろう。皆んなの指標となるように。


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