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アンドロイド転生91

2105年10月
カノミドウ邸 東屋にて

シュウはナナエと共に東屋にやってきた。
「やはりあなたですか。今度は一体何かな?」
シュウは微笑んでいる。アオイはホッとした。
「お時間を取って頂きまして有難う御座います」

シュウは椅子に腰掛けた。アオイと対角線になる。ナナエはモネの絵を眺めた。アオイは願った。2人共、今日はもっと時間を頂戴。でも…もうケーキは食べたから大丈夫よね?ね?

「夏祭りの言伝とは何ですか?」
「ミナトさんが転んで泣き出して…シュウさんがおぶってくれました。その優しさに惹かれてアオイさんはお嫁さんになると決めたのです」

シュウは小首を傾げた。
「それは…誰から聞いたの?」
「その前に…この間も言いましたが、輪廻転生が本当にあるとしたらどうですか?」

シュウは苦笑した。
「うーん…。僕はそういう事はあまりねぇ」
シュウの自分を僕と呼ぶ言い方に親しみを感じた。心を許してくれていると思った。

「死んでも魂は生きているのです」
「アオイは生きているとでも…?」
「はい」
もうどうにでもなれと言う気持ちだった。

「アオイさんの誕生日にシュウさんは子猫の縫いぐるみを贈って下さいました。ずっと宝物だったそうです。2人でハワイでダイビングをした海の青の世界は本当に綺麗だったと…!」

シュウは目を見開いた。アオイと過ごした様々な想い出が弾けるように蘇った。アオイは慌てた。
「体調は悪くないですか?大丈夫ですか?」
「ああ。大丈夫」

アオイは唇を舐めた。早く。時間は僅かだ。
「大学生の時、告白された晩にシュウちゃんの服に吐いた事をごめんなさいって」
敬称がさんから、ちゃんに変わった。

「ど、どこから聞いたんだ?」
「アオイさんです」
「ん?ヒナノさんから聞いたのか?」
同時に言葉が出た。

アオイは目を見開き勢い込んだ。
「え!ヒナノが生きてるの⁈」
「ああ。生きてる。え?知らないのか?」
シュウも驚きの声を上げた。

「カー!うんち!」
モネが突然声を張り上げた。ケーキを満足いくまで食べて今度は用が足したくなったようだ。ああ、なんて事!今大事なところなのに!モネは電子ノートとペンをアオイに渡すと膝に抱きつく。

「カ〜!出ちゃう〜!」
アオイはモネとシュウを交互に見た。ああ、どうして上手く行かないの…?その目の端に屋敷を背に叫びながら誰かが走ってくるのを見た。

執事アンドロイドが東屋に飛び込んだ。
「旦那様!ユリコ奥様が倒れられました!」
「何だって⁈」
シュウは走り出した。

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