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アンドロイド転生1004

2119年11月25日
日本某所 遺伝子バンクセンター

体外受精の流れとは事前検査(血液検査・ホルモン検査など)を行ってから卵巣機能に応じて卵巣刺激法(排卵誘発法)を選択・実施し、腹部に穿刺して採卵をする必要がある。

次に卵子に体外受精を行なって培養し子宮に受精卵を戻す。多胎妊娠のリスクを考慮して35歳未満は1個だ。黄体補充を行なって約20日後に採血を行い血中β-hCGを測定する事により妊娠判定する。

サキは寝台に横たわり処置を受けていた。今日は受精卵を戻す段階なのだ。胸がドキドキとしていた。私の赤ちゃん…ケイとよく似た人との子供…。成否が分からないのに涙が滲んだ。

処置が済み技師アンドロイドは微笑んだ。
「1回目で妊娠に至る割合はサキ様のご年齢の32歳ですと45%です」
サキは頷いた。そうか。約半数なのか。

「なるべくゆったりと過ごして下さい。重い物を持つのは控えて下さい。ですが適度な運動。良質な睡眠。しっかり栄養を摂ることです」
「はい」

サキとケイは遺伝子センターを後にした。街を歩く。気付かぬうちに腹に手を当てている。今…私のお腹には命があるのだと感動していた。20日後が楽しみでならなかった。

帰宅すると隣に住むツグミに報告をする。サキにとって友人であり、先輩であり、姉なのだ。ツグミはサキをしっかりと抱き締めた。
「きっと…上手くいく。大丈夫」

(20日後 12月15日)

妊娠判定日。2人は遺伝子センターにやって来た。サキは血液検査を行った。直ぐに結果が出た。医師アンドロイドはニッコリとする。
「おめでとう御座います。陽性反応です」

サキの瞳が輝いた。出来た!出来たのだ!赤ちゃんが!欲しいと思い始めて5ヶ月後の事だ。
「あ、有難う御座います!」
「慎重に過ごして下さい」

サキの身が引き締まった。 
「はい」
「つわりを抑える薬がありますが…」
「結構です。いりません」

つわりになる確率は50〜80%らしい。私はきっと大丈夫。何の根拠もない自信だった。健康なサキは産まれてから今まで1度も薬を飲んだ事がない。だから頼りたくなかったのだ。

「ケイ。ベビー服を買いに行こう!」
「え!家に帰ってゆっくりした方がいい」
「何を言ってるの?世の中の妊婦を見なさいよ。皆んな元気一杯に動いているよ」

2人はショッピングモールに訪れた。ベビーショップに入る。赤ん坊の服は本当に小さくて可愛らしい。来年の夏にはそんな小さな存在がやって来るのかと思うとサキは嬉しくて堪らなかった。

服を撫で回しながらサキは宣言する。
「ケイ。私は後悔していない。でも妊娠の事はお父さん達には言わない。平家カフェの人達にも。横槍を入られたくないの」

そうなのだ。妊娠中は心穏やかに過ごしたい。小煩い父親の攻撃に晒されたくない。自分には味方だけがいれば良い。ケイとツグミだ。
「ケイ。すっごい幸せ!」

「僕もだ」
「親には産まれた頃に報告するよ。私達の子供だもん。2人で見守っていこう」
「うん。君の意見を尊重するよ」

「本当に有難う」
「アンドロイドが父親になれるなんて…こんなに嬉しいことはない。こちらそこ有難う。ママ」
「うん。私はママ。あなたはパパ」 


※サキと両親のシーンです


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