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アンドロイド転生827

2118年7月11日 夜7時
イギリス某所:レストラン

日本人とイギリス人のハーフのミア。今日で会うのは3回目だ。ミアのお勧めの店にやって来た。今日は魚貝類専門のレストラン。2人はビールで乾杯する。リョウは一気に飲み干した。

「今日で通ったのは何日目?」
「10日目です」
ミアにはエマの家に100日間通うと報告した。理由は言ってないがミアも尋ねてこなかった。

「リョウって仕事は何をしてるの?」
「ぼ、僕は…コンピュータがそこそこ得意で…アンドロイドを造ったりメンテナンスしたり…」
「へえ!凄いね!」

「ミアさんは?」
「私は調律師。知ってる?」
リョウは首を横に振った。
「ピアノの調律。正確な音律に整えるの」

リョウは感心した。そんな仕事があるのか。だが正確な音律ならば…アンドロイドの方が遥かに音を聴き分けられるのではないか?
「1/fゆらぎって知ってる?」

ミアは尋ねたもののリョウは知らないだろうと判断して続けた。瞳がキラキラとしている。
「自然界には…必ず不規則な動きがあって…それを『ゆらぎ』って言うのね」

ミアは人差し指でリズムを取る。
「でね?風や雨や…波などゆらぎの代表的なもので…それってとっても心地が良いの」
「うん。そうだな…分かります」

「でね?単調な音楽をずっと聴いていると安心感はあるけど退屈なの。規則的すぎてゆらぎがないからなの。アンドロイドがピアノを調律するとね?それはそれは素晴らしいんだけど…」

リョウの瞳も煌めいた。
「分かった…!人間が調律すると『ゆらぎ』がそこに生まれるんですね?」
「そうそう!」

「調律のニーズはアンドロイドの方が断然多いんだけれど…中には絶対人間の耳で!と言う人もいるのね。それで…私の出番なの」
「凄いですね」

ミアは苦笑して舌を出した。
「とは言っても…私は去年学校を卒業して…調律師としては新人。お父さんはミアはまだまだヒヨコだって言うの。これからだって」

リョウはミアの声音が気持ち良かった。人の声にも…ゆらぎがあるのかもしれない。いつも人と関わる時にはキリ達以外は緊張するものだが不思議にもミアと一緒にいると心が安らいだ。

ミアは悪戯っぽい目つきをした。
「あのね?うちのお父さんがリョウに会いたいって言うの。日本人なんて嬉しいなぁって。ね?今度うちに来ない?」

リョウは目を丸くする。今日はエマの父親に会って、今度はミアのお父さんか!自分の周囲の人間がどんどん増えてくる。やはり人間は動物なのだとつくづく実感した。動く物なのだ。

動けば…そう。『ゆらぎ』が生まれる。コンピュータばかりだった俺の世界が変わって来たんだな。リョウは素直に嬉しかった。
「も、勿論。僕で良ければ…」

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