見出し画像

アンドロイド転生818

2118年7月5日 午後2時過ぎ
ハスミエマの邸宅:中庭

母親がごゆっくりと言って笑顔で去って行くと、リョウはホッとした。人と…特に女性と一緒の場は緊張するのだ。手にはスコーンを握っていたが、味などよく分からなかった。

エマは花を手折った。鼻先に持ってくる。
「ママは浮かれてるのよ」
「え…」
「娘がいつまでも引き篭もりは困るのよね」

リョウは申し訳ない気持ちになる。エマはあの事件で心も身体も傷ついて渡英したが、まだ癒えていないのだ。リョウは俯いた。
「す、すみません…」

エマはリョウをじっと見つめた。
「あなたが私の事をネットで暴いたのを親に言ってもいいの。でもね。言えば親は怒るし恨むでしょう。傷もつく。また辛い思いをする」

リョウは顔を上げられない。
「は、はい」
「もう2度とそんな気持ちにさせたくないの」
「はい。分かります」

エマは鼻で笑った。
「あなたが来て…ママが喜んでいるならそれでも良いかと思ってね。私が…誰かと話をするだけで…あの人は嬉しいのよ」

それは当然だと思う。親として心配なのだ。
「僕は…必ず100日通います。約束します」
「じゃあ…あと96日ね。ママが喜ぶわ」
「き、祈祷師だなんて嘘…良いんですか?」

エマは笑った。
「100日が終わったら日本に帰るんだもの。それでサヨナラだもの。問題ない」
「は、はい」

リョウは立ち上がると頭を下げて屋敷から出た。母親が気付いて追いかけて来た。
「ドウガミさん。明日も待ってるわね!」
「はい。お茶もケーキも美味しかったです」

30分後。リョウはイギリスの中心地にやって来た。陽は落ちたがアフタヌーンティーで満腹だ。だが夕飯はどうしようか…。何か買って帰るか。腹が減ったら食えばいい。そう決めた。

商業施設に入ろうとした時に人とぶつかった。相手は老人だった。老人は転ぶと悲鳴を上げた。リョウは驚いて直ぐに駆け寄った。
「す、すみません…大丈夫ですか」

老人は座り込んでリョウを睨んだ
「痛くて堪らん。どうしてくれる?」
日本語だった。
「病院に行く。治療費を払ってくれ」

リョウは何度も頷いた。
「それは構いませんが、本当に大丈夫ですか」
「いいから。直ぐに病院に行くから払ってくれ。リングで送金しろ。200ポンドでいい」

リョウはスマートリングを起動した。金額を入力しようとした時に誰かが彼の腕を掴んだ。そして老人に向かって英語で叫ぶ。老人はスッと立つと慌てて走って行った。リョウは呆然となる。

「ダメよ。詐欺なんだから」
日本語だ。リョウは驚いて相手を見た。数日前にリョウを詐欺から救ってくれた白人女性だった。相手もリョウに気付いて目を丸くした。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?