見出し画像

アンドロイド転生157

タケルはルークとミオの壮絶な過去を知って戸惑っていた。いや、アンダーグラウンドに嫌悪を覚えていた。人間というのはいつの時代でも残酷な生き物だ。一定数の悪はいるものなのだ。

深夜。人々が寝静まった後、リビングの一角にアンドロイド達は集まっていた。チアキ、トワ、ルーク、ミオの他に2体の男女がいた。ケイとアリスと言う名前だった。

ケイはタケルと同じ25歳の男性型。落ち着きのある静かな風貌で品があった。アリスは22歳の女性型。優しげな顔立ち。これでホームにいる6体全員のアンドロイドをタケルは知った事になる。

トワはケイを見た。
「次に知って欲しい奴いる?ケイはどう?」
「僕の過去なんて知っても面白くないよ」
ケイは真面目な顔をした。

「私のを知りたい?」
アリスはミオから無線ケーブルを受け取ると微笑んで頸に挿した。また恐ろしい画でも観るのだろうか。タケルは少し怖気付いた。



アリス:2年前:(2108年)

タケルの眼前にアリスの過去が押し寄せて来た。「いや!食べたくない!いらない!」
16歳の少女は顔を背けた。アリスは気付かれないように溜息をついて食事のトレイを下げた。

微笑んでグラスを持って差し出した。
「では、せめてジュースだけでもお飲み下さい。もう3日も何も召し上がっていないのです」
「だって!毒が入っているの!」

「カノン様。毒など入っていませんよ」
「しっ!静かにして!アイツらが聞いてる!」
カノンは唇に指を当てると素早く辺りを見回した。目が爛々としている。尋常ではない。

少女は全裸で個室のベッドにいた。服に盗聴器が仕掛けられていると言って、脱いでしまうのだ。アリスは優しい眼差しでゆっくりと頷いた。
「アイツらは先程帰っていきましたよ」 

カノンは目を丸くした。
「帰って行った?宇宙に?UFOに乗って?」
「はい」
「ホントに?絶対?」
「はい」

アリスはこの施設で務める限り精神療法の一環として臨機応変に対応をする。
「帰った後にオレンジを絞ったので毒など入っていません。安心してお飲み下さい」

カノンはホッとしたように頷いてグラスを受け取ると喉を鳴らして一気に飲み干した。脱水気味なのだ。何とかして水分を摂らせなくてはならない。このやり取りを1日に何度も行っていた。

アリスはナースでカノンは統合失調症である。ここは重度の精神疾患患者の入院施設だった。現代の医療技術は大抵の病は遺伝子治療で克服出来たが、精神領域はまだ未知の分野だった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?