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アンドロイド転生116

2113年8月(別れまで7ヶ月)
モネの部屋

アオイはモネの手を取って優しく撫でた。
「モネ様はひとつ大人になりました。身体が赤ちゃんの出来る準備が整った事を表しています」
モネは恥ずかしそうに頷いた。

「ですがモネ様のお身体はまだまだその力が足りてません。心も身体も充分に成熟してから出産する方が望ましいです。分かりますか?」
「うん」

「そして、子供を作るには他者の力が必要です。現代は同性同士からも誕生しますが…一般的には男女です。だけどその男性の身体は女性とは違って子供を望む事よりも性の目覚めの方が強いのです」

アオイはモネの様子を伺った。大丈夫。真剣な表情だ。彼女は分かってくれている。
「つまり…ただの好奇心や欲望によって子供が出来てしまう事があるのです」
モネはゆっくりと頷いた。

「モネ様。本当に愛する人と結ばれて下さい。好奇心や欲望に負けないで下さい。人生は長いのです。…私の言いたい事が分かりますか?」
「分かる。簡単にエッチしないでって事でしょ?」

モネの口からエッチなど出るようになったかと、アオイは感慨深い気持ちになった。
「ご自分を大事にして下さい。人生を急がないで下さい。モネ様はこれから色んな経験をするのです」

アオイはそれを見届けられないのが寂しかった。あと残り7ヶ月の派遣期間が終われば、自分は廃棄となる運命である。だからせめてモネが幸せになる事を願っていた。悲しんで欲しくなかった。

「カー。大丈夫。私ね?やりたい事あるの。あのね?私…女優になりたいの」
アオイは目を見開いた。生前のアオイの夢は女優だった。それは儚い泡沫となった。でも、モネがその夢を叶えてくれたらどんなに嬉しいだろう。

「モネ様はとっても可愛いです。そして美しい大人になるでしょう。夢は諦めないで頑張って下さい」
「うん。頑張る!中学になったら演劇部があるの!入ろうと思うんだ」

アオイは小さく手を叩いた。
「素敵です!」
「発表会には来てよね?」
行きたい!観たい!

だが来年の春には別れが来るのだ。嘘をつくわけにはいかない。アオイは生真面目な顔をした。
「残念ながらそれは無理です。お別れです」
「あ!そうだった!カー!帰っちゃう!ラボに!」

ラボに帰った後のアオイの運命まではモネは知らない。だがそれで良い。良いのだ。するとモネが思い切り抱き付いてきた。アオイはよろけた。
「カー。帰らないでぇ。寂しいよ!」

モネの背を撫でた。腕の中で収まっていた頃を思い出す。あんなに華奢で頼りなかった赤児がこんなに大きくなったのかと胸が一杯になった。時は本当に早く過ぎていく。そう。瞬く間に。

アオイもモネを抱き締めた。         「まだ7ヶ月もあるんですよ。日数にしたら202日です。沢山あります。さぁ…!お話は終わりました。おやつにしましょうか」

瞬間冷蔵でゼリーは食べ頃になったろう。
「うん!する!」
2人は手を繋いでモネの部屋から出た。18歳モデルタイプのアオイとモネはまるで姉妹のようだった。

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