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アンドロイド転生1076

2120年10月7日 夕方
ルイの高校 教室にて

授業が終わり部室に行く前の茜色の時間。ルイは同級生のレナに進路について報告した。
「東大ね。うん。ルイなら楽勝だね」
「レナは?」

「私はスイスに行く」
「スイスの大学か?」
「うん。チューリッヒ大学を進学する事に決めたの。自然科学を学びたいの」

レナはガッツポーズした。
「それにいつかマッターホルンを制覇するよ」
「お!頑張れ」
2人は山岳部で2年以上を共に過ごした仲だ。

レナはずっとルイに恋をしていた。だが彼の心は友達の域から抜け出す事はなかった。レナの想いは実らなかったが2人は良い関係を築いた。愛には友情だってあるのだ。

「ルイはキノコ博士になるんでしょ」
「うん。未知の効能を見つけたいんだ」
「きっと発見するよ。私はね。命の不思議が知りたい。いつか生命の謎を解き明かす!」

「よし。2人ともノーベル賞を目指そう」
「いいねぇ!晩餐会で会おうよ。私は素敵なドレスを着て行くよ。ルイは着物かな?」
「イイかもな!」

レナはニッコリとした後、デスクから身を乗り出した。悪戯っぽい目つきになる。
「ね?教えて。こんなに可愛い私をルイは選ばなかった。そんなに忘れられない人なの?」

ルイは黙り込んだ。忘れられない人…モネ…?いや?そうなのかな?と首を捻った。うん…確かに好きだけど…違う。今はそう言う気持ちじゃない。また付き合いたいとかは…思わない。

だってモネは遠い人になってしまった。モデルに女優。キラキラしてて今はもう雲の上の存在だ。自分とは立場が違う。だからテレビで見かけても切なくて苦しい気持ちにはならない。

反対に頑張っているなぁと感心するのだ。そして幸せになって欲しいと思う。そう。自分が幸せにしたいとは思わない。きっと誰かがモネを今以上に幸せにしてくれるだろう。

「ね?まだ好きなの?」
「違うよ。そんなんじゃない」
「じゃあ…何で私じゃダメだったの?あ。いいんだよ。恨んでいるわけじゃないから」

ルイは真面目な顔をした。
「レナは…いい奴だ。俺の1番の親友だ。でも…何でかな…?きっと女じゃないんだな」
「ひどぉい!」

レナは頬を膨らませて睨んだ。
「これでも私はモテるんですからね!」
知ってる。頭が良くて可愛くてスポーツが出来て性格も良い。人気者だ。でも…。

でも…人を思う気持ちは“好ましい“と“恋“とでは違う事をルイは知ったのだ。
「分かってるよ。レナならいい奴と出会う。そしてめちゃくちゃ幸せになる」

「うん。スイスのイケメンと出会うよ」
そして2人は友情を築いたまま大人になっていく。長い人生を、其々に出会いと別れを繰り返して心も体も成長するのだ。

・・・

その後のレナの人生をここで報告させてもらう。彼女は望み通りチューリッヒ大学に合格して自然生命科学を学んだ。だが研究者にはならずノーベル賞を取ることもなかった。

生命の謎を解き明かすのをやめて命を取り扱う保険会社に就職したのだ。スイス法人で営業職として活躍した。マッターホルンを制覇することもなかったが、登山の趣味は続けていた。

32歳で山岳家のスイス人の男性と巡り合い結ばれた。結婚式は山のロッジで盛大に行った。そして一男一女に恵まれて日本に帰ることなく幸せな一生を送ったのである。


※レナの告白シーンです

※ルイとレナのクリスマスのシーンです


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