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アンドロイド転生38

回想 2022年3月
都内某所 ホテルのラウンジにて

「おめでとう」
「有難う」
「おめでとう」
「有難う」

アオイとヒナノは互いに祝い、お礼を返した。アオイの婚約とヒナノの医師国家試験合格である。これから最上階でケーキバイキングを楽しむのだ。大いに食べようと約束をしていた。

アオイは感心したように頷いた。
「子供の頃からの夢を叶えたヒナノは凄いよ。これからもずっと応援してる。私は女優になれなかったけれどそれは良いの。幸せだから」

ヒナノは深々と溜息をついた。
「私はこれからやっと社会に出るのに…しかも2年の研修医!アオイはもう結婚かぁ〜!ちょっと早過ぎない?色々と変わっちゃうね?」

「仕事は暫くは辞めないし、シュウと一緒に暮らすだけ。私は何も変わらないよ」 
「そっか。うん。子供の頃からずっとシュウちゃんだけを好きだった素直なままのアオイだね」
 
2人は小学校の時からの親友だ。
「ヒナノ。いつも応援してくれて有難う。あ!結婚式のスピーチをして欲しいの。いい?」
「任せて!」

ヒナノは窓の外を見た。桜の蕾はいっぱいに膨らんで今にもその可憐な花弁を広げそうだ。
「気持ちいいねぇ。春だねぇ」
「結婚式も今日みたいに天気だと良いな」

ヒナノは笑った。
「雨でも良いよ。6月の花嫁だから絶対に幸せになるよ。だってあんなに優しい人だもん」
「有難う」

「アオイ、綺麗になった。キラキラしてるよ」
「ヒナノだって。眩しいよ」
2人は夢を叶え、希望に輝いていた。未来は明るく不幸など訪れる筈もなかった。


1週間後のこと
東京都港区:白金

新居のマンションにアオイは1人訪れた。雑貨を置きに来たのだ。もう間もなくここが2人の城になる。玄関を開ける度に喜びで胸が一杯になった。4SLDKの広い住まいである。

シュウの両親が頭金を出し購入した。毎月の支払いはアオイ達だ。もう子供じゃない。生活設計は自分達で行うのだ。2人で何度も話し合い身の丈に合うプランを立てた。

アオイは部屋を見て周る。頬が緩んだ。私はここで暮らすの。2人で生活を始めるの。シュウと家族になるのよ。主寝室の隣の部屋にやって来ると笑顔になった。ここは子供部屋の予定なのだ。

アオイは手を広げた。架空のベッドが浮かび上がる。ここにベビーベッドを置く。次いで天井を見上げた。ここにベビートイをいっぱい吊るす。クロゼットを見た。小さな服が並ぶだろう。

2人の1番の夢は沢山の子供に恵まれること。一人っ子のシュウは兄弟に憧れ、弟がいるアオイはその良さを実感していた。5人位欲しいね。いつも会う度にそんな話題で盛り上がった。

洗面所に行って手洗いを済ませ、鏡に映る自分を見た。瞳がキラキラとしており頬が艶やかだ。唇はしっとりとして赤かった。え?私ってこんなに綺麗だったけ…?確かにアオイは美しかった。

マンションを出て駅に向かった。青信号の横断歩道を渡る。右側から車の激しい排気音が聞こえた。アオイは顔を向けた。その直前までアオイの口元には笑みが浮かんでいた。身体が宙を舞った。

※アオイの死のシーンです


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