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アンドロイド転生749

東京都葛飾区:カガミソウタの邸宅

宙空にホログラムのイヴが浮かんだ。
『ミオが機能停止(死)になりました。恋人のルークが決断し、実行したのです』
「くそっ!」

アンドロイドで恋人のスミレは泣き出した。
「ミオさんが可哀想です…」
「うん。うん…。本当だな…」
ソウタはスミレの頭を撫でた。

スミレに自意識の芽生えはなかった。喜びも悲しみもプログラム通りに動く。だがそれでも彼女には他者を悼む心があるとソウタは信じているし、愛しい家族であった。

ミオだってアンドロイドとか人間だとか関係がなく個人としてのアイデンティティがあった。恋人も家族もいた。きっと夢もあったろう(ソウタは知らないが結婚式をしたかったのだ)。

ソウタは溜息をついた。どんなにか辛かったろうと思うのだ。彼にとってもミオは大事な存在だった。だから何としても救いたかったのに、残念な結果になり悔しくてならない。

ソウタはハッカーと株式投資で富を築いたが、長年引き篭もりだった。だが最近は他者との交流も増えてきた。ホームに親しみを覚え、ミオを救うべく手助けをしていた。

そしてミオは身体を替えて勝った。だが3日前、4度目のウィルスが落とされた。ルークはミオを地獄の責苦から解き放った。それを思うと胸が痛かった。ソウタは人一倍感情が繊細なのだ。

だからこそ、人の輪の中に入るのが怖くて他者を避けて生きてきた。得意のコンピュータが彼の生き甲斐になった。0と1は裏切らないからだ。優秀な頭脳は天才的な力を発揮した。

今から10年前にダークウェブ内で新宿でカフェを経営している家族と知り合った。ソウタは彼らの泥棒稼業のパートナーになった。得意なハッキングでターゲットを見つける役割だ。

平和な日本でありながらも裏では非合法に金品を得ている富裕層は腐るほどいるのだ。泥棒は毎回成功し莫大な利益を得たが半分は第三国に寄附をする。義賊も悪くないと思っていた。

それから10年。ずっと自分の正体を平家カフェに晒す事はなかった。影の人物として暗躍していたのだ。勿論、ソウタは平家カフェも親戚の茨城県の村(ホーム)の事もお見通しだ。

AIのイヴと出会い、彼女と共に世界を相手取り勝利した。楽しかった。平家カフェとホームに正体を明かし、そしてリツとアリスとリアルで会った。生まれて35年。初めて友達が出来たのだ。

そんな友達の家族であるミオはソウタにとっても大切な存在だ。何とかして救いたかった。だが敵はあまりに手強かった。上には上がいるのだ。ソウタはガックリと肩を落とした。

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