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アンドロイド転生128

2040年6月 フワタケルが死ぬ半年前の事。

タケルは学校を終えて帰宅途中のバイト先のピザ店に向かっていた。腕の携帯が鳴った。母親のミズキだった。電話に出ると男性でミズキの勤務先の介護施設の所長だった。

「お母さんが倒れたんだ。今、救急車が来てる。これから病院に行くんだ。危険な状態らしい。急いで行ってくれるか」
タケルは驚愕した。

所長から搬送先を聞いて慌てて向かった。手芸の部活をしている妹のミチルの携帯を鳴らして呼んだ。2人は病院に到着した。ミズキは心筋梗塞を起こし、これからオペをするとの事だった。

心臓が悪いなんてタケルは知らなかった。手術同意書にサインをしなければならない。だが未成年では許可が降りなかった。医師は慌てた顔をした。 「お父さんは?」               

「…父親は…いません」
半月前から行方不明だ。勤務先の運送会社から連絡が来て、事務員と会社の金を持ち出して逃亡したというのだ。刑事事件になり家族は途方に暮れた。

「伯父さんか誰か親戚の人は?」
「いません。お願いします…!手術をして下さい!」
「…仕方がない。特例だよ」
数時間後。オペは成功しミズキはICUに運ばれた。

医師がタケル達を呼んだ。
「うまくいったけれど、他の部位に問題があるんだがオペは難しいんだ。今後も発作を起こすだろう。充分に注意してあげて」

今後も心配な状態は続くとは言えオペは成功したのだ。タケルとミチルは安堵した。
「分かりました。有難う御座いました…!」
2人は何度も頭を下げた。

半月前からフワ家は不穏な状況だった。父親は横領して蒸発し、職場から被害届が出て指名手配となった。刑事が何度もタケル達を訪ねてきた。マスコミも連日昼夜を問わず家の周りに張り付いていた。

それでもタケルは学校もバイトも休まなかった。妹のミチルも通学し、母親のミズキも通勤した。人々は遠巻きして噂話をした。でも負けなかった。胸を張った。自分達は何も悪い事はしていないのだ。

父親は昔からロクでもなかった。家族はそんな男に慣れていたし、愛想も尽かしていた。容姿だけは恵まれていた。それが本人は自慢だった。但し、それ以外は何ひとつ良いところはなかった。

仕事は長続きせず、ギャンブルと酒と女が好きだった。酒を飲むと気が大きくなり散財し、そして暴力を振るった。ボクサー崩れの男は何度も警察の世話になった。タケルはそんな父親が大嫌いだった。

「母ちゃん。あんなオヤジと別れちゃえよ!」
「…お父さんは…弱い人なの」
殴られて青あざを作っているのに力なく微笑むミズキに理解が出来なかった。

タケルが成長すると今度は自分に暴力を振るうようになった。それでも良い。母親が標的になるくらいなら。高校生になるとタケルは父親に対抗した。その度に負けた。ボクサー崩れでも強かった。

蒸発してくれて清々したのが本音だった。だが持ち逃げした金の弁済をしなくてはならず、貯金は全て使い切った。それでも足りなかった。借金を背負った。カツカツの暮らしだったのだ…。

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