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アンドロイド転生29

回想 2019年11月

アオイは田園調布の駅の改札を出て家路に向かっていた。途中にはシュウの住まいがある。その1分後にはアオイの自宅に到着する。アオイはゼミの研究資料を抱え直し足早に歩いた。

北風に落ち葉が舞う。鼻先と頬が冷たい。首元が肌寒い。アオイはマフラーを撒き直した。早く家に帰って暖まりたい。家政婦のマサコさんにココアを作って貰おう。

間もなく前を歩く若い男女を目にする。胸が高鳴り、苦しくなった。あの後ろ姿はシュウだ。どんなに暗くてもすぐに分かる。隣にはミドリカワマイコ。シュウの恋人だ。

通り過ぎるか、それとも声を掛けるか。何て言おう?これからシュウのおうちですか?お勉強ですか?ご飯を食べていくんですか?何時迄いるんですか?…ああ、ダメ。そんな根掘り葉掘り。

大体、シュウがどうしようと勝手だ。私だってボーイフレンドの1人や2人いるもの。だから気にしない。気にしちゃダメ。そうは思っても2人から目が離せない。気になって堪らないのだ。

マイコが笑いながらシュウの肘を叩く。ふっと後ろを見た。アオイと目が合う。アオイは慌てて挨拶をする。マイコが言う前に先手を打つのだ。黙って見ていたとは思われたくない。

「こんばんは。アオイちゃん。今帰り?」
見れば分かるだろう。自宅に向かっているんだから。あなたもさっさと家に帰れば?シュウも振り返った。立ち止まる。

なんで止まるの?そのまま歩いていてよ。
「久し振りだなぁ。元気にしてたか?」
「元気よ、すっごく!」
なんだか妙に力が入ってしまい恥ずかしくなる。

「卒論ね、一緒にやろうって」
マイコが聞かれてもいない事を口にする。
「薬学部同士で弾むね」
シュウとマイコは薬学部で6年制だ。

ああ。弾むねなんて嫌味っぽかった。ああ、馬鹿な私。取り繕ろうと思って慌てた。
「私も追い込みなの」
4年生のアオイとシュウは卒業は同じだ。

「頑張ろうね」
マイコはニッコリとした。勝ち誇った様に見えるのは私の心が捻じ曲がっているせいだ。だからアオイは素直に頷いた。降参だと思う。

だって…なんでよりによってマイコなの?性格が良くて美人でシュウとはお似合いだ。2人は半年前から付き合っていた。1日の大半を研究室で一緒に過ごすらしい。私の入る余地なんてない。

なんかモヤモヤする。シュウの幸せを心から喜べない。2人の姿を見るのが嫌だ。これって何?確かにシュウを取られた様に思って寂しい。でも、これは私の我儘なの?心が狭いの?

アオイの心に芽生えたものがまだ恋だとは気付かなかった。マイコに嫉妬を感じている事も。シュウがあまりにも近くにいて分からなかったのだ。アオイは頭を下げると足早に2人を追い越した。

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