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アンドロイド転生65

回想 2087年10月
カノミドウ家の邸宅

「お祖父様〜!何とかして〜!」
シュウは盆栽の鋏の手を止めず後ろを振り返りもしなかった。声の主は分かっている。訴える内容も。広い庭には手塩にかけた鉢が並んでいた。

「パパはホントに古いんだよ!考えが!」
孫娘のアカリは足を踏み鳴らし勢い良くやって来た。頬を膨らませている。手を後ろに組むとシュウの顔を覗き込み、一転して甘える口調になった。

「お祖父様から言ってくれる?」
「私が言ったって聞かんよ」
「そんな事ない!お祖父様には頭が上がらないもん!ねぇ〜?お願い〜」

アカリは唇を尖らせた。子供の頃の癖のままだ。シュウはガーデンチェアに腰掛けるとアカリにも指し示し、座れと合図した。
「だがなぁ?5人も子供がいるんだろう?」

アカリは瞳を煌かせ白い歯を見せた。
「6人目が出来たって!」
「6人目…」
「でもね?彼は私とは結婚したいって!」

アカリの恋人は其々母親が違う子供の父親だった。独身主義を貫いていたがアカリとは籍を入れたいらしい。彼には地位も財産もあるので純粋に孫を愛しているようだ。だが、しかし。

「そんな男はアカリと結婚しても、よそに子供を作るかもしれないぞ?だからタクミも許さないんだろう?それでも良いのか?」
「いいよ。別に」

シュウは孫のケロリとした様子に呆れた。
「子供は国の宝よ?沢山いるなんて素敵よ」
瞳をキラキラと輝かせる。シュウはやれやれと頭を振った。時代の変化とは恐ろしい。

テラスに出てきたシュウの妻を見つけるとアカリは弾かれたように立ち上がった。
「ねぇ!お祖母様も味方になって〜」
アカリは艶やかな髪を靡かせ走って行った。

あんなに小さかったアカリがもう24歳だ。うん?24歳?そうか。あの時のアオイと同じ歳なのか。結婚間近で逝ってしまった恋人…。シュウは感慨深い気持ちになった。

青い空を見上げる。アオイ…。いつまでも若いアオイ。細い身体。色白。輝く髪。光る頬。長い睫毛。子供の声、少女の声、女性の声。いつも一緒だった。いつでも傍にいた。

あれからどれ位経ったんだろう。時が過ぎるのは本当に早い。瞬く間だ。もうそろそろ私もそっちに行くよ。ああ、でもすっかりお爺さんになってしまって君は分からないかもしれないね。

「あなた。お茶にしましょう」
アカリは妻のユリコに腕を絡めてお願い〜!と声を上げている。彼女も困った顔をしていた。
「ああ。そうしよう」

シュウは立ち上がり東屋に向かった。執事アンドロイドがトレイを持ってその後を追った。人間と見分けが付かないほどの精巧さ。何もかも人工皮膚の成功によるものだ。シュウは満足だった。

そうして平和に時は流れていく。その後アカリは意志を貫き結婚して2女に恵まれた。アカリの弟のタカヤは3人の子の父親になった。子供達の名はトウマ、ナナエ、ミツキである。

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