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アンドロイド転生815

2118年7月4日 午後3時過ぎ
平家カフェ:休憩時間

チアキ達は客と話し合う事になった。ミシマユウサクは来春から幼稚園を開業すると言う。その戦力として元保母のチアキを望み、店主に契約者の立場を譲って欲しいと願った。

店主のキヨシは腕を組んでいる。言葉を発せない。なんて言えば良いのかと思うのだ。何せ自分はチアキの契約者ではないのだ。TEラボから逃亡したチアキには所有者も契約者もいない。

16年前。ホームの村人が茨城県の山中を彷徨うチアキを救った。その後TEラボはチアキの存在を抹消した。彼女は自由になったのだ。誰かの所有物ではない存在。チアキはそれが嬉しかった。

通常アンドロイドには所有者(ラボ)がおり、契約者(企業や個人など)に派遣される。ミシマユウサクも当然の如くそう解釈しているのだ。まさか逃亡したなど思っていない。

ユウサクは店内を見渡した。
「このお店は大変流行っているようで、客足が途絶えません。チアキさんがいなくなると立ち行かなくなりますか?」

店主は頷いた。そう思ってくれるなら何よりだ。契約者の変更など出来ないのだから。それに言われた通りチアキが抜けるのは痛い。だが、少し前まで親子3人で回していたのだ。

チアキが戦力になってくれるのは助かっているが、さて…どうだろう。彼女はまた保母として働きたいかもしれない。アンドロイドとは言え店主は彼女の気持ちを尊重したかった。

店主はチアキを見た。
「どうだ?保母としてまた働きたいか?」
チアキはじっと一点を見つめていた。
「保母はとても楽しかった…働きたいです」

ユウサクはホッとした顔になる。姪のユイと息子のサクヤと目を見合わせて笑った。ユウサクは前のめりになった。店主を見つめた。
「すぐにご返事はいりません。また改めます」

3人は立ち上がろうとした。すると店主の妻のマユミが慌てたようにキッチンから出て来た。
「あの…ケーキを食べて行って下さい。僕…サクヤ君だっけ?いくつ?苺は好き?」

「10歳です。苺は大好きです」
子供好きのマユミは目を細めた。どうぞとテーブルに置く。サクヤは目を輝かせた。
「わぁ!クリームもスポンジもピンクだ!」

3人は大いに喜んでケーキを食べた。ユウサクはそれからはチアキの契約の件には触れず、天気や世間のニュースなどの当たり障りのない話をした。全員が和やかな時を過ごした。

3人が頭を下げて去って行くと一同は気が緩んでホッとした。リツが笑った。
「母さんは子供が好きだよなぁ。あれだろ?ソラの事を思い出したんだろ?」

ソラとはヤクザのスオウトシキの次男で10歳。約半年前に平家カフェに『人質』としてやって来た。利発で可愛いソラにマユミはゾッコンだった。だがもう2度と会えないのだ。

スオウとの駆け引きにイヴがプランABを作り出し、脅迫の材料としてチアキがソラを拉致したのだ。ソラは真夜中にやって来た。数時間を共に過ごした。まるで孫のように思えた。

「だって…可愛かったんだもの…。サクヤ君も可愛いわね。子供っていいわねぇ…」
リツの恋人のアリスの胸がチクリと痛む。きっとマユミは孫が欲しいに違いない。


※ソラが平家カフェで過ごした時のことです


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