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アンドロイド転生125

TEラボ

逃げろ!アオイはメンテナンスルームを飛び出し廊下を駆け抜けた。エントランスに出るとTEラボを背に全速力で走った。平和な現代は彼女の行く手を阻むものはなかった。

だがアオイの身体に搭載のGPS機能で直ぐにでも居場所を特定される。それでも脚は止まらなかった。職員は電子ノートのマップを立ち上げるとアオイのIDを入力した。

守衛アンドロイドを呼び、頸のソケットに無線ケーブルを差し込むとマップとリンクした。
「このナンバーを追って連れて来い」
守衛は走り出した。

アオイは山間を駆けた。とにかく遠くへ。止まるな!走れ!つくば市の森を抜け県境の山へやって来た。すぐ下には木々を挟んだ砂利の一本道だ。道路に降り立ち左右を確認した。

右側に人の姿が見えた。アオイと目が合う。アンドロイドだ。嫌な予感がした。追手だと察した。アオイは左側に猛然と走り出した。だが動きやすい一本道は追われるのも早い。

恐怖を感じ道を折れ山道を分け入って登り始めた。疲れ知らずのアオイはいくらでも走れるが、それは守衛も同じだ。そして彼女よりも背が高く脚が長い分、直ぐにでも距離は縮まるだろう。

アオイは振り返らず山道を走り抜けた。真後ろに追手の気配を感じる。高感度の聴力が彼の足音を聞き取るのだ。ああ、捕まったらどうなる?初期化どころか解体されてしまうかもしれない。

怖い!そんなの嫌!助けて!

廃棄だとばかり思い込み覚悟をしていたものの命が繋がった事で死ぬ事が怖くなった。たとえアンドロイドだとしても、まだ生きていたい。今や生の欲望に支配されていた。

死にたくない!死にたくないの!

さっきから警告音がアオイの内側で響き渡っていた。不快で堪らない。でも逃げなくては…!どんどん山道を登った。唐突に道がなくなる。見下ろすと渓谷だった。その高低差25m。

どうしよう…!

アオイは先のない道で逡巡した。登って来たのは失敗だった…!こういう時は降るべきだった。もう道がない…!落ちたらどうなる?衝撃でバラバラになるかもしれない…!守衛がアオイに追い付いた。

ああっ!嫌!

木々から鳥が飛び立った。私も鳥になりたい。大空に逃げ出したい。心臓が早鐘のように鳴った。谷底を見ても彼を見ても恐怖を感じた。自分を中心に世界が回る。ネックレスを握り締めた。

誰か助けて…!

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