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アンドロイド転生825

2118年7月11日 午後2時
イギリス:ハスミ邸
(訪問10日目)

執事に促されてリョウはリビングへ入った。ソファにはいつものようにエマと母親のユリエ。だが今日は男性もいた。父親のコウイチだ。リョウはいつかはこの日が来ると覚悟していた。

コウイチはにこやかに微笑んだ。端正な容姿は中年の渋みと深みがあった。富裕層らしい自信が醸し出されており一寸の隙もない。フランクさと軽い威圧感を兼ね備えていた。

「は、初めまして。ドウガミリョウです」
「ハスミです。娘が世話になっています」
「せ、世話だなんて…と、とんでもないです」
リョウはかぶりを振った。

ユリエはいつもの如く満面の笑みだ。毎回快くリョウを迎えてくれる。エマはじっとリョウを見つめていた。父親の登場を予想していただろう。その瞳は上手くやれという眼差しだ。

コウイチは薄く微笑んだ。
「どうぞ。寛いでくれたまえ」
「は、はい。有難う御座います」
間もなく執事がお茶をテーブルに並べた。

「ドウガミ君。君は幾つなんだい?」
「さ、35です」
娘は29歳。6歳離れているのか。うん。丁度良いだろう。コウイチは1人頷く。

「君は祈祷師なんだって?」
リョウの顔が紅潮する。エマが出まかせを言ったのだが、今更嘘だとは言えない。
「は、はい」

ユリエが後を引き継いだ。
「茨城県の山で暮らしたんですって。先祖代々」
「ほほう。子供の頃から修行していたのか」
「は、はい」

リョウは胡散臭いだろうと思っているのだが、ハスミ夫妻は職業に貴賎なしという考えで不満がない。それどころか引き篭もりの娘を助け出してくれるかもしれない救世主だと思っている。

「どうかね?我が家の水でパワーがついたかい」
ハスミ家の水を100日間飲めばパワーが生まれてそのエネルギーで患者を治す。そんな突拍子もない話を彼らは信じている。

リョウ心苦しくてチラリとエマを見るが、エマは話を合わせろと目配せをする。
「は、はい。パワーがつきつつあります…」
ハスミ夫妻はニッコリとした。

ユリエはスコーンを勧める。
「リョウさん。召し上がって」
驚いた。初めて姓から名前に変わったのだ。これは格上げか?それだけ期待してるのか?

リョウはユリエの気持ちが痛い程よく分かった。日本での事件はエマだけではなく両親も心の傷が深かっただろう。娘の乱行シーンがネットで流された上、自殺未遂まで起こしたのだ。

下手すれば親子は永遠の別れになっていたかもしれない。命が助かってイギリスに連れて来たもののエマは暗い顔をして引き篭もっているのだ。だがリョウが現れた事で変化が起きた。

エマに笑顔が生まれたのだ。実際のところリョウの誠意が通じたわけでもなく、変わらずエマは彼を恨んでいるのだが両親はその事実を知らない。ただただリョウに感謝していた。

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