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アンドロイド転生275

富士山7合目

休憩をしていた2人だったがタケルは歩き出すとアオイを振り返った。
「さぁ。帰るぞ」
「残念。頂上まで行きたかったなぁ」

アオイは惜しむ表情で空を見上げた。すっかり山登りを楽しんでいた。タケルは呆れた顔をした。
「いくらアンドロイドの身体でも何の装備もなくて頂上まで行けるもんか」 

「え?そうなの?」
「アイスバーンだ。一歩間違えば滑落する」
「え?そんなに大変なの?」
「当たり前だろ」

アオイは驚いて人々を見渡した。
「でもこの人達は頂上に行くんでしょ?パワーフットをしてるから余裕でしょ?」
「登頂するのは別のシーズンだ」

「え?そうなの?」
「冬なんて無理だよ。−30℃なんだ。皆んな途中の山小屋で新年を迎えるんだ」 
「へぇ…」

タケルはまた呆れたように鼻で笑った。
「世間知らずにも程がある。お前は阿呆か?」
アオイは頬を染めた。
「そんなに大変だとは思わなかったの」

タケルは立ち止まって繁々とアオイを見つめた。
「お前って…生きてた時も何も知らないで親やシュウに頼って呑気でいたんだろ?いかにも世間知らずのお嬢って感じだもんな」

アオイの頬が強張った。
「ど、どう言う意味?」
「そのまんま」
タケルは小馬鹿にしたように笑う。

そんな目つきが不愉快だった。さっきまでの和やかな雰囲気は消し去った。確かに自分は世間知らずだが、他人に両親やシュウに依存していたと指摘されたくない。事実だからこそ癪に触った。

アオイは射るような視線をタケルに向けた。
「あなたにそんな事を言われる筋合いはない」 
タケルはアオイの怒りを感じ取ったようだ。
「悪かったよ。言い過ぎた。ごめん」

アオイは顔を背けて足早に歩き出した。タケルと衝突したのはこれで2回目だ。夏場に集落の近くの渓谷で子供達と遊んだ時に言い合いになったのだ。あの時は泥棒家業を否定した。

普段から滅多と接していないのに、たまの機会でこうなってしまうのは余程馬が合わないのだろう。これからも距離を置こうとアオイは決めた。それから互いに無言で下山した。

5合目に到着するとタケルが声をかけてきた。
「充電するか」
アオイは残量を確認する。
「まだ…大丈夫」

しかし、心が晴れない。こんな気持ちのままバイクの後ろに跨る気持ちになれない。彼と密着するなんて嫌だ。もう少し時間が欲しい。本当にこの人とはいつも緊張するとアオイは思った。

アオイはタケルをチラリと見た。タケルはケロリととしている。何もかもすっかり忘れたと言わんばかりだ。やっぱり私は…執念深いの?
「でも…充電する」

アオイはレストハウスに向かい、充電器ブースに入って椅子に座った。約1時間で完了する。この間に気持ちを立て直そう。子供みたいにいつまでも怒っている自分でいたくなかった。

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