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アンドロイド転生276

富士山5号目

タケルは充電器ブースに入るとアオイと並んで椅子に腰を降ろした。尾骶骨を押してコードを伸ばし電気のソケットに繋いだ。約1時間で完了する。内部に熱を感じた。これが心地良い。

アオイを横目で見た。無表情の顔つきはまだ怒っているように見える。失敗したと思っていた。アオイの親やシュウの事を引き合いに出すのは良くなかった。反省し詫びたので機嫌を直して欲しかった。

アオイの美しい横顔を眺めてタケルは溜息をついた。女というものはよく分からない。ただアオイの言葉に呆れてしまったのだ。この時期の富士山の様子を想像しないものか?全く呑気な女だと。

そんな能天気なヤツのせいで今回の強奪は諦める事になった。だがタカオ達と話し合い、それはもう決定した事だと納得した。最初はアオイの我儘に憤っていたが時間が経つにつれ怒りもおさまった。

いつまでも根に持ちたくない。だから気分を変えるため富士山を訪れた。登山は楽しかった。景色は美しく雄大で素晴らしかった。アオイも喜んでいた。来て良かったと思った。

アオイと自分は共通項があるのだと実感した。自分達は残念ながら若くして命が終わった。だが何の運命の悪戯か転生した。24歳で死んだアオイは母親と同年代だったが、何となく幼かった。

17歳で死んだ自分よりも世間を知らずだ。大事に育てられきたのだとアオイの言動や仕草が物語る。まぁ…幸せに生きて来たならそれでいい。だがなんでアオイと接すると衝突してしまうのだろう。

ついさっき老婦人の言葉を否定せず処世術だとアオイに自慢した。そのように彼女にも対応すれば衝突を避けられるのに、アオイに対しては自我を通す。実はそれだけ気を許していたのだ。

約1時間が経ち充電が終わると2人はブースから出た。身体に力が漲っているように感じられる。
「よし。行くか」
「待って。子供達にお土産を買いたいの」

アオイの口調が和らいでいる。心に余裕がありそうだ。良い傾向だとタケルは安堵する。アオイはのど飴をいくつか購入すると微笑んでリュックに大切そうにしまった。そんな仕草は好ましかった。

タケルはバイクに跨った。
「乗れ」
「はい」
アオイはタケルの腰に腕を回した。

そう言えば女性を後ろに乗せたのはアオイが初めてだとタケルは気が付いた。エリカと2人で出掛けたことなどなかったのだ。タケルはエンジンを掛け、富士山を後にした。

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