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アンドロイド転生934

2118年12月24日 夜
目黒区:サキのマンション

サキの目前には友人夫婦のユウトとツグミの立体画像が浮いていた。ユウトが真剣な顔をする。
『サキちゃん。分娩室に行く。ツグミが応援してくれって言ってる。産まれたら連絡するよ』

「は、はい!ご連絡を楽しみにしてます!」
ユウトの背後にツグミがいた。眉間に皺を寄せながらも何とか笑顔を見せて手を振った。ユウトも微笑むと画像が消えた。

親友のツグミに間もなく子供が産まれる。病院から連絡してきてくれたのだ。サキはハァ〜と大きく息を吐いた。何だかお腹が痛くなってきた。まるで自分が産むかのように。

アンドロイドで恋人のケイと2人でキッチンに立っていた。2人分の食事を作っている。外出せずに家で食べるのだ。ケイと一緒に。彼は食べる真似事をする。後で洗浄すれば良い。

だが洗浄は容易くない。キリに処置してもらう必要があるため、ホームに帰らなくてはならない。ケイとサキは明日から茨城県に行くのだ。年末年始を村で迎える為に。

明日の茨城県の山中は快晴だそうだ。連日の降雪で里帰りは断念するかもしれなかったが止んだのだ。雪が積もっているが山育ちのサキは何ら問題ない。それに家族に会いたかった。

心配性の両親に元気な顔を見せたいのだ。会うのは半年振りである。きっと親は言う。特に父親だ。“タウンでイイ男でも見つけたか?“とか。“孫が見たい“とか。全く過干渉だ。

なんで分からないのか。私は人間とは付き合わない。子供もいらない。ケイと一生共にすると何度言っても理解してくれない。面倒くさい事この上ないのだが顔を見せておきたい。

そんな煩い干渉も私の事を心配しているのだと分かるから。愛してくれてると理解が出来るから。だから無碍に無視は出来ない。私が里帰りすると言うだけで大喜びなのだから。

昨日は街に行ってお土産を探してきた。シーグラスを売って得たお金で買ったものだ。お揃いのパジャマ。気に入ってくれるとイイな。サキは部屋の隅に置いてある土産を見て微笑んだ。

食事が出来上がるとテーブルに並べて、音楽を流した。室内の灯りを落とす。ケイがシャンパンを抜いた。グラスに注ぐ。ダイヤの煌めき。2人はグラスを当てると微笑んだ。

「メリークリスマス!」
サキは喉を鳴らす。ケイもグラスを傾けて飲み干した。ニッコリとする。味覚もなく満腹もない彼でもサキと共にする事が嬉しい様子だ。

2人は食事を始めた。ケイは丁寧に咀嚼する。サキも嬉しかった。年に一度くらいはこんな風に人間の真似事をしてくれる。共に食べると言うことはやはり大事なのだなと思う。

約2時間後。ユウトからコールが来た。
『産まれたよ!元気な男の子だ!』
「おめでとう御座います!!」
画像が動いてツグミと赤ん坊が浮かんだ。

「ツグミさん!本当におめでとう!」
『有難う…。あ〜疲れた』
ツグミは笑っていたが顔に疲労が滲んでいる。
『でも…嬉しい…可愛いの…私の赤ちゃん』

サキは赤ん坊を見つめた。猿のような新生児。顔を顰めて眠っている。サキはツグミの気持ちがよく分かった。そうだろうな。腹を痛めて産んだ子供だ。可愛いに決まってる。

そうか…。私も31年前にこんな風にして産まれたんだ。お母さんは凄く大変だったろうな。お父さんはきっとオロオロしたろうな。でもきっと…しわくちゃな私を愛したろうな。

※サキと両親のシーンです


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