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アンドロイド転生1000

2119年10月12日 午後
都内某所の総合病院

カナタは病院に入る前にしゃがみ込んで愛犬シェリーの足を丁寧にウェットティッシュで拭き取った。シェリーは笑っている。白い歯が輝く。毎日のブラッシングの賜物だ。

カナタはシェリーを抱き締めた。良い香りがする。昨晩、シャンプーをしたのだ。耳も綺麗、目元も綺麗。よし。合格だぞ。カナタはシェリーの頭を撫でて元気よく立ち上がった。

病院内に入ると担当のナースアンドロイドがやって来た。にこやかに微笑んでいる。
「カナタ様。シェリー号。いらっしゃいませ」
「宜しくお願い致します」

カナタはシェリーと共に病院や施設を訪問するパートナードッグというボランティア活動をしている。今日は病院だ。小児病棟と老人病棟を巡回する。毎回歓迎されている。

まずは小児病棟だ。子供達はシェリーに抱き付いた。シェリーも大喜びだ。だがやたらに舐めたりはしない。訓練されているのだ。犬はベッドに上がり優しく添い寝をしたりする。

子供達は様々な疾患を抱えて辛い治療に耐えていた。そんな彼らのひと時の憩いになれればとカナタはいつも思うのだ。子供達に誘われてカナタは絵本を読んだりゲームする。

次にふたりは老人病棟にやって来た。シェリーは一人一人に挨拶をする。患者達は笑顔になった。小児病棟と同じように皆に愛されていた。犬には人を癒す力があるのだ。

カナタは囲碁や将棋を囲み、思い出話に付き合う。彼は天真爛漫な性格でいつも前向きだ。だが思慮深いところもあり協調性や共感性も持ち合わせている。カナタを嫌う人などいない。

3時間後。カナタとシェリーは皆に見送られて病院を後にした。カナタはニッコリとする。
「シェリー。今日もバッチリだったな!」
犬は嬉しそうに尻尾を振った。

帰宅してカナタは部屋に行くと室内をぐるぐると歩き回った。家には義母がいる。彼女に相談したい事がある。だが言うのは躊躇われた。
「うーん。うーん。なんて言おう…」

カナタが悩んでいるのは遺伝子検査の事だった。現代は性行為の前に検査をするのが当然だ。血が近い事を避ける為である。人は科学の力で誕生する事が多くなったのが理由だ。

結ばれた後に兄弟姉妹だと判明するは好ましくない。カナタは10ヶ月前から同級生のアイリと付き合っている。彼女から遺伝子検査を望まれたのだ。当然の要求である。

閉鎖的な村が出身のカナタとアイリが血が近い事は有り得ないのだが、やはり検査で確認しておけば万が一子供に恵まれても安心だ。それに遺伝子には様々な情報が隠されている。

本人達に問題がなくても、両者の細胞が結合した時に発症する疾患もあるのだ。カナタは充分に検査の意義を理解している。問題は未成年の場合は保護者の承諾が必要な事である。

「だってよぉ…マミーに頼んだらよぉ。俺達は…そのうち…しますよ!って宣言してるようなもんだろぉ…。うーん。それは…なかなか…」
カナタはブツブツと呟いた。

もし妊娠したらアイリは産むと言い切った。しかしそれもどうかと思う。一時は喜んだカナタだが自分達にはまだ長い人生があるのだ。子供は可愛いが互いに縛られるのは良くない。

カナタのリングがコールする。義母だ。
「おやつにしましょうよ。いらっしゃい」
カナタは部屋を出てリビングに行く。義母の顔を見て、やっぱり頼むのはやめようと決めた。


※カナタとアイリが付き合う事になったシーンです


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