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アンドロイド転生821

2118年7月5日 夜8時
イギリス:チェルシー地区
ハスミ邸

リョウとミアが食事をしている頃。ハスミコウイチが帰宅した。エマの父親だ。母親のユリエは夫の腕を引っ張って夫婦の部屋に彼を誘う。
「会ったの!今日!ドウガミさんって言うの」

4日前。ユリエは夫に伝えていた。娘が笑ったと。イギリスに来て3ヶ月が過ぎたが初めての事だった。どうやら誰かが我が家に訪れた。その誰かのお陰でエマは笑顔を取り戻したのだ。

「男か?」
「そう。凄く感じの良い人だったわよ。見た目は平凡だけど、なんだかパワーがあるの」
「パワー?」

ユリエはニッコリとした。
「祈祷師なんですって」
「祈祷師?ふーん。そうか」
コウイチは平然と頷いた。

今から100年前の世の中ならば祈祷師など怪しいと言うかもしれない。だが平和な時代。業務の大半をアンドロイドが行う世界は人間の職業に融通性があるのだ。貴賎なしと言う考えだ。

しかも日本の資産は潤沢で福祉国家である。国民は低所得でも生活に支障がない。だからフレキシブルに職業を選べるのだ。労働は賃金を得ると言うよりもやり甲斐や生き甲斐を優先するのだ。

「うちの気の流れが良いんですって。100日間うちでお水を飲めばエネルギーが貯まるらしいの。それでクライアントを治すんですって」
「へぇ〜」

ユリエは口を引き締めた。
「あの子も(エマ)もう29歳。そろそろ夢見る頃も終わりよ。マジョリティなんて変な趣味をやめて人間と結婚して欲しいわ」

ユリエの瞳が煌めく。
「ね?パパもドウガミさんと会ってみない?」
「それは良いが…そもそもエマとはどう言う関係なんだ?彼氏なのか?」

「大学の先輩だって言ってた。まだ友達みたいだけど…大丈夫よ!エマちゃんは可愛いもの!ドウガミさんだってわざわざイギリスに来るくらいだもの。その気があるのよ」

コウイチは満足そうに頷いた。兎に角娘には人間と結ばれて欲しいのだ。日本を出る時に一緒にいたアンドロイド…名前は…そうだ。タケル。あんなマシンを好きだと言って驚いた。

しかしコウイチは理解している。アンドロイドと恋愛関係を結ぶ類の人間がいることを。それは構わない。好きにしてくれと思う。だがこれが娘となると話が違う。冗談じゃない。

空港で別れ際にエマとタケルは…俺達の目の前で抱き締め合ってキスをしていた。腹の底から嫌悪を感じた。あんな機械の塊が…大事な娘を自由にするのかと思うと憎しみすら覚えた。

イギリスに連れて来て清々としたがエマは怒りを露わにして俺達に何度も詰め寄った。仕舞いには無視するようになった。だが時間が解決するんだ。エマは必ずいつもの明るい娘になる。

その第一歩が祈祷師の男でも構わない。人間は人間と付き合うものだ。最終的には結ばれて子宝に恵まれれば言うことない。
「よし。その男と会おう」 


※タケルとエマの空港の別れのシーンです


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