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アンドロイド転生93

2105年10月
救急医療センター:個室

ユリコは目を開いた。白い天井が見えた。ベッドにいるようだ。鼻に違和感を覚えた。手で押さえると呼吸器が装着されていた。その手の甲には点滴の針が刺さっている。電子音が聞こえた。

ここは…どこ?

目を泳がせると椅子に腰掛け、腕を組んで目を瞑る夫のシュウがいた。
「…あなた…?」
声が掠れた。お水で喉を潤したい。

もう一度声を掛けるとシュウは目を瞬かせ開いた。慌てて立ち上がり彼女を見下ろした。夫の目が細められた。明らかに安堵している。何か大事があったようだ。え…と…何があったのかしら…。

シュウがユリコの手に触れた。その温もりが安心感を覚えた。シュウは天井に頭を向けた。
「妻が目を覚ました。ドクターを呼んでくれ」
『はい。分かりました』

シュウが目を戻した。
「目を覚ましたら呼べと言われたんだ」
「ここは…どこ?」
「病院だよ」

ユリコは眉根を寄せた。シュウは微笑む。
「君は倒れたんだ。くも膜下出血を起こしてね。頭が痛いと言ってたろう?前兆だったんだな。オペは成功した。もう大丈夫だよ」

ユリコは思い出した。トウマの誕生日会だった。吐き気がし、手足が痺れて人々が二重に見えた。これは何かまずい兆候だと恐怖した瞬間、世界が真っ暗になった。それからの事は覚えていない。

その前にシュウに頭が痛いと訴えた。
「あなた…何処かに行かなかった…?」
「うん?」
「薬を貰うって私が言った時…ナナエと…」
「…そうだ…東屋に行ったんだ」

シュウも思い出した。ユリコの騒ぎですっかり忘れていた。あのアンドロイドと会ったんだ。どんな話をしたっけ…?えーと。シュウは頭が混乱してしまってなかなか思い出せなかった。

ドクターアンドロイドが病室に入ってきた。一通りユリコを診察すると問題ないと微笑んだ。シュウは妻に向かって頷き、ユリコは微笑んだ。言葉を交わさなくても通じ合っていた。

ユリコは個室にいた。救命措置の迅速さが奏功しICUに搬送されるほど重篤ではなかった。待機室にいた息子夫婦と孫夫婦達が病室に入ってきた。口々にユリコの生還を喜び束の間の時を過ごした。

曾孫達はいないのでトウマに申し訳ないとユリコは詫びたが、皆首を振り彼女に労わりの言葉を掛け続けた。ナースが柔かにやってきた。
「奥様。辛いところはないですか?」
「ええ。大丈夫よ」

「ではご家族の方はお引き取り下さい」
ナースに促されシュウ達は病室を後にした。家に向かう車中は喜びに包まれた。孫のアカリはシュウの手を握って離さなかった。

「お祖母様が倒れた時、お祖父様の姿が見えなくて皆んな焦っちゃったのよ!」
シュウは詫びた後、窓の外を眺めて東屋の出来事を思い出していた。

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