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アンドロイド転生124

TEラボにて

アオイは職員に尋ねた。何故廃棄されないのかと。すると派遣先の主人の評価だと言う。
「君は優秀だから派遣が終わっても廃棄にならなかった。でもモデル的には古いんだよな」

アオイはそうだろうなと思う。職員は続けた。
「古いモデルは専属にはならないで、パーティとかのパートタイムになんの」
「そうですか…」

アオイは成程と納得をする。誕生日会やパーティの度にやって来た臨時の給仕アンドロイド達や楽団の彼らを思い出した。廃棄を免れた後の行き先。そうか。自分もそうなるのか。

「だから記憶は邪魔だから消すよ」
「え?」
「真っ新になんの」
「で…ではこの12年間を忘れるのですか?」
「そう言うこと」

アオイは呆然となった。初期化とはつまりそういうことなのだ…。アオイは途端に怖くなった。
「お、お願いします…!この記憶を消さないで下さい!新しい場所でも誠心誠意努めますから…!」 

彼は目を丸くした。
「そんな事を言うアンドロイドなんて俺初めて見た。ネックレスにしろ君は変わってるなぁ」
アオイは震えた。お願い…!モネや…あの人達との思い出を奪わないで!嫌!絶対に嫌!

職員はアオイの顔を見つめた。記憶を消さないでなどと願うアンドロイドなんてどうしたら良いんだろう?上司に相談してみよう。
「ちょっと待ってて」

彼は隣のモニタールームにいる上司を見つけた。
「すみません。あの…変わったのがいて…」
アオイは職員達が話しているのを高感度の聴力で聞き取った。初期化を実行しろと指示されている。やっぱりダメなのか…!

モネの笑顔を思い出す。絶対に私を忘れないでと泣いたモネ。そうよ!約束したじゃない…!忘れるものか…!そして…そしてシュウ…!孤独の中で再び出逢えた奇跡。嫌だ。忘れたくない…!

アオイは椅子から立ち上がった。職員が頭を振りながらこちらにやって来る。恐怖を感じた。初期化される…!忘れてしまう…!嫌!ダメ!逃げろ!今すぐ!アオイは出入り口に向かって走り出した。

職員が驚いて目を見開く。
「おい!待て!」
途端にアオイの内側から警告音が響いた。命令に従うまで鳴り続けるだろう。


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