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アンドロイド転生121

2114年3月11日(別れの朝)
タカミザワ邸

午前6時。アオイは最後の朝を起こしにモネの部屋に訪れた。いつもは目覚めさせるのに苦労をするのに既に起き上がっていた。
「お一人で出来たのですか!」
「…うん」

モネは身支度を終えると、サクラコと共にダイニングテーブルに着いた。朝食が並べられてもモネは手をつけようとはしなかった。終始俯いている。
「モネ様?お食事ですよ?」

モネはサクラコを見上げた。
「ママ!何とかして!さよならなんて嫌!」
モネの叫びに胸が打たれた。アオイも心の中で叫んだ。私も別れたくない!成長を見届けたい…!

サクラコは娘を抱き締めた。
「もう赤ちゃんじゃないの。ナニーは卒業だよ?」
「メイドでも良いじゃん!それで良いじゃん!」
モネは顔を歪めて泣き出した。

モネは何度もサクラコにアオイを残してくれと頼んだがサクラコは首を縦に振らなかった。12歳でナニーと別れる。これが世間の常識なのだ。悲しいが仕方がない。これも運命なのだ。

モネは立ち上がり駆けて行くとすぐに戻ってきた。掌にはアクアマリンのネックレスがあった。サクラコから贈られ大事にしている物だった。
「カー!これ!私だと思って!ね?ね?」

アオイは目を見開いた。
「こ、こんな大切な物を頂けません!」
モネは叫んだ。
「貰ってよ!お願い!」

モネはサクラコを見て大粒の涙を零した。
「カーも3月生まれでしょ?同じ誕生石だよ。だからあげたいの。いいでしょ?ママ?」
サクラコが頷いた。

アオイは激しく首を横に振った。廃棄される身の上に贈り物を貰うわけにはいかない。
「い、いけません」
「サヤカ。モネの気持ちなの。受け取って」

サクラコはモネからネックレスを渡されるとアオイの首に巻いた。ブルーの小石がアオイの胸元で煌めいた。まるでその色合いが自分の本名を表しているかのようで喜びで胸が一杯になった。

モネは嗚咽を上げながら微笑んだ。
「カー…。凄く似合うよ…」
「あ、有難う御座います…!」
アオイは小石に手を触れて頭を下げた。

モネは涙を拭きながら何度も頷く。
「誕生石は…御守りなんだよ…!ね?ママ」
サクラコは力強く頷いた。
「そうね。きっとサヤカを護ってくれるね」

アオイはモネの瞳を見つめ手を握った。
「モネ様。こんな大事な物を頂けて…私は幸せ者です。大事にします。絶対、大切にします」
そう。廃棄されるその寸前まで宝物だ。

「カー!絶対に私の事を忘れないで!約束して!」
彼女はアオイが廃棄される運命だとは知らない。それで良い。良いのだ。
「はい。忘れません」

2人は抱き締め合い、声の限りに泣いた。アオイは12年前にここにやって来た日を思い出した。アオイの腕に抱かれた頼りない赤子だった。その存在は光で希望で癒しになった。宝物の日々だった。

アオイはモネの頬を両手で包み微笑んだ。
「モネ様、あなたの笑顔が大好きです。あなたは私の太陽です。だから覚えておきたいのです。笑顔でさよならをしましょう」

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