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アンドロイド転生273

2117年12月31日 午前8時
富士山5号目

タケルは都内から富士山を目指した。これから1日が始まる。ダイヤモンドを返すのは深夜だ。まだ時間があるのだ。3時間後、富士の麓にやって来ると2人はバイクから降りた。

澄み渡る青い空で心が晴れた。多くの登山者がいた。人間と同じくらいの数のアンドロイドもいた。荷物持ちや、アシストなのだ。人々は脚にパワーフットを装着していた。

50年前に富士山は開山時期がオールシーズンとなった。科学の進歩により登山者の服装も装備もより快適性を増した。しかもアンドロイドがサポートするようになり安全性も高い。

ロッジも大きく広く優れた設備となった。なんとサウナもあるらしい。登山は人気で手軽なスポーツとなったのだ。アオイとタケルは登り始めた。道中にはアンドロイドのガイドが道案内をしている。

登山者がアオイ達にも挨拶をしてくれて嬉しくなる。同じ目的なら人もマシンも関係がないのだ。アオイは駿河湾の蒼く澄んだ海面を眺め、高山植物の強さと美しさに惚れ惚れして、山道を歩いた。

生前のアオイには体力的に到底叶わなかった登山を楽しむ事が出来た。頂上まで42km。休まずとも往復する事はこの身体なら可能だろう。しかも服装も登山にしては軽装だ。

「頂上まで行くの?」
「それは無理だ。途中で引き返す」
タケルは機嫌を直し口調は普通に戻っていた。清々しい顔をしている。アオイは安堵した。

嬉しくなって足取りが軽い。だが景色に気を取られアオイは脚を滑らせて転びそうになり叫んだ。タケルは振り返るとアオイが倒れる寸前で咄嗟に手を出し抱き止めた。

「あ、有難う…」
「鈍臭えな。お前、ホントにマシンかよ」
「ホントね、柔術をインストールしても運動神経は鈍いみたい」

気を取り直して山道を一定のリズムで登る。アンドロイドの身体ならいくらでも歩けるのだと嬉しかった。前を行くタケルの背中を見た。まさか、彼と山登りだなんて。想像もしなかった。

エリカがこの事実を知ったらどんなにか嫉妬をするだろう。内緒にしておきたいが下手に言わないのも気まずい。日中をどこで過ごしたのかとなる筈だ。全く面倒臭い。エリカの愛情は強くて重い。

7合目のロッジで休憩をした。アオイが知っている山小屋とは様相が違っている。巨大で未来的だ。多くの人がお茶やお菓子で休んでいた。アオイ達も水を買って寛いだ。皮膚の保湿に必要なのだ。

隣に座っていた老婦人が微笑んだ。
「こんにちは。あなた達は新婚さん?」
「いえ!まさか!2人共アンドロイドです」
「あら。そう。ご主人は?どこにいるの?」

タケルはニッコリと笑った。
「いません。私達2人だけです。主人が下見をして来いと言ったのです」
「まぁ…!カップルなんて素敵ねぇ」

アオイは慌てた。
「カップルじゃありません…!」
タケルはアオイの手を握って微笑んだ。
「はい。有難う御座います」
アオイは目を丸くした。

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