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アンドロイド転生709

白水村集落:リペア室

イヴはミオに提案する。ウィルスプログラムのタイムリミットは6時間。デリートは不可能だ。だから機能停止を選択するかと。それは人間なら言わば死だ。イヴの発言はあまりにも残酷だった。

ミオの瞳からポロポロと涙が零れ落ちた。こんな恐ろしい事を何度も繰り返して心が折れてしまった…。そんな表情をしている。瞳に翳りが差し、力がない。静かな嗚咽が室内に響いた。 

チアキも泣き出した。いつも冷静で物事に動じない彼女には珍しい事だった。
「イヴ。ミオは大事な妹なの…。失いたくないの。頑張ろう。ギリギリまで努力しよう」

ルークの顔が怒りを帯びた。
「機能停止なんて許さない!発動も許さない!イヴ!何とかしろ!頼む。何とかしてくれ」
全員が頷いた。それが彼らの意志だった。

イヴは平静な顔で頷いた。
『分かりました。皆さん、始めましょう』
全員が一丸となって取り組んだ。様々な側面からデリートを試みた。

だが突破口が見えないまま3時間が経ち、仮眠を取った人間達が戻って来た。リペア室の空気を感じてまだ解決していない事を悟ると其々の持ち場について作業を始めた。

だが努力は虚しく更に約3時間後。タイムリミットが迫って来た。カウントダウンが残り10分になった。ミオの顔に恐怖の色が浮かんだ。
「こ、怖い…。私…どうなるの…」

全員が口を開けない。こんな無念な事があるだろうか。目の前で仲間を失うのはトワの時で懲り懲りだった。なのにまた見送るのか…。誰もがミオは死ぬのだと覚悟した。

残り1分を切った。解決策を見出せないままその時を待つ他なかった。ミオは寝台に横たわり虚空を見つめた。観念の表情が浮かんでいる。運命を受け入れた顔だった。

「皆んな…皆んな…本当に有難う。私の為に凡ゆる努力をしてくれた。幸せだった。皆んな…大好きだよ。ルーク…愛してる…さようなら」
ルークがミオを抱き締めた。

3、2、1…。ゼロ。ウィルスプログラムが解凍し発動された。ミオの内側で音が鳴った。それは過去によく聴いた音だった。そう。アンドロイドに搭載されている警告音だった。

暴力殺人禁止機構や、主人の命令に背いた時、アンドロイドの範疇を超えた所業の際に音が鳴る。絶え間なく。いつまでも。主人が停止を言うまでは。その音はアンドロイドを苦しめる。

ミオは呆気に取られ目を瞬かせ、あっと叫んだ。機能停止を覚悟していたのに、まさかこんな事態になるなんて…。そうだ…。ゲンは言っていた。ウィルスを仕込んだ時。苦しめと。

リペア室の全員もミオはそのまま逝くのだと思っていた。だが彼女は一見無事に見える。もしかして大丈夫なのか?ルークが顔を覗き込んだ。ミオは不安げに彼を見つめ返した。

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