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アンドロイド転生810

2118年7月2日 午後2時
イギリス:チェルシー地区
ハスミエマの邸宅

リョウはあんぐりと口を開いた。なんて立派な家なのか。一体築何百年なんだろう…?こんな煉瓦の建物がイギリスでは当たり前らしい。木造住宅が当然のリョウにとっては驚きだった。

来訪の旨を告げると門が開かれた。執事アンドロイドがやって来てにこやかに微笑んだ。外国人モデルだが日本語で出迎えの言葉を告げた。慇懃に腰を折る。リョウも頭を下げた。

執事は全てを心得ているらしく、リョウを招き入れると屋敷内を誘導した。リョウは歩きながら唇を舐めて手を握ったり開いたりする。額も背中も掌も汗でびっしょりだった。

扉が開かれた。広々としたリビング。高い天井。室内は陽光が燦々と射しており、眩しい光に包まれていた。その中心にハスミエマ。リョウの心臓は緊張で鼓動が速くなる。

執事が微笑んだ。
「お茶をお持ち致します」
お茶など悠長に飲んでいられるものか。リョウは慌てて辞退した。

エマも微笑む。
「イギリスは紅茶が有名よ。飲んだら?」
鈴を転がすような気持ちの良い声だ。画像ではない彼女の美しさにリョウは圧倒されていた。

こんな綺麗な人とタケルは付き合っていたのかと思う。きっとタケルはエマに物凄く惚れただろう。そんな2人の仲を俺は裂いてしまったのだ。リョウは申し訳ない気持ちで一杯になった。

エマはソファに座って対面の椅子を指した。
「どうぞ」
リョウも座ろうとしたが慌てて立ち上がった。手土産を用意していた事を思い出したのだ。

エマに向かって差し出す。
「う、うちの村で作った…蜂蜜石鹸です。無添加で無着色。保湿力に優れているそうです」
乾燥しやすいイギリスには適しているだろう。

エマは少しだけ表情を緩めて受け取った。
「有難う」
リョウは再度椅子を勧められて腰掛けた。ゆっくりと息を吐く。そっと額の汗を拭った。

エマはじっとリョウを見つめている。リョウの緊張は極限だ。謝罪の前に話題を探そうとするが何も思い浮かばない。これはもう謝ってさっさと屋敷を後にした方が良さそうだ。

「あ、あの…お時間を取ってもらって有難う御座います。こ、この度は本当に…す、すみま」
「ねぇ?お百度参りって知ってる?」
「え…?」

エマは楽しそうに笑った。
「昔の人は神様にお願い事を叶えてもらう為に神社に100日通ったんだって」
「はぁ…」

「あんたもそうしたら?毎日うちに通うの。100日間ね。達成したら許してあげる」
リョウは目を丸くした。つ、つまり3ヶ月以上…ここに通って謝罪しろと言うのか…!

なんて事を言い出すんだ…?リョウは呆気に取られながらエマを凝視した。女性をそんな風に見つめるのは初めてだった。彼女は臆する事なくリョウを見返した。2人の視線が交差した。

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